Fallen leaves

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 ポケットから封筒を出して上着を脱ぐと、一枚の赤い楓の葉がフードから落ちた。 「またか。いつの間に入ったんだろう。」  封筒を手に握ったまま部屋に入る。 「結局今年も出せなかった。」 箱を開ける。5枚の楓の葉と封筒が入っている。 6枚目を入れて、僕は箱を棚にしまった。  やっぱり、手紙を出すことは僕にはできない。毎年この日になると僕はポストまで向かう。切手をはった封筒を持って。でも、帰ってくる時も一緒なのだ。 窓際で微笑む君を見て、そんな君と対照的に僕の口角は下がる。 「臆病だと思う?でも、そうなんだよ、僕は臆病だから、君のご両親に挨拶をすることはできない。今までも、そして、きっと、これからも。」 変わらずに微笑む君の顔がぼやける。  「ごめんね、」  6年だ。6年。でも、僕は君のお墓を知らない。 6年間、僕は君に会っていないし、きっと君も僕のことを思い出してはいないんだろう。 僕はただ、窓辺の君の写真に祈ることしかできない。  5年前、二人で手紙を出そうと約束した。 ちゃんと親に自分たちの関係を伝えようと話した。 勇気を出して、一緒に手紙を書いた。 じゃあね、と言って、手紙を持って、君の手にそっと口づけをして、僕は病室を出た。  でも、ポストに手紙を入れることはできなかった。  息子が男と付き合っていたなんて、きっと受け入れてはくれないだろう。 受け入れてくれたとしても、きっと、受け止めるために時間を要するはずだ。 彼の両親は、しきりに孫の顔が見たいと言っていたらしい。 僕は、彼と彼の両親の間に溝ができるのを見たくなかった。それより、何よりも、僕が彼に会いに行けなくなることが怖かった。 封筒をじっと見つめて、それから僕は封筒をポケットにしまった。 君を裏切ってしまった。君ならきっとできるよ、と言って笑ってくれたのに。 でも、ただ手紙を出すというその行為は、僕にとってはとても重いものだった。  誰から連絡が来ることもなく、君が遠いところに行ったと知ったのは、次の日いつものように病院で受付をしようとした時だった。 看護師さんから告げられた、彼の死。 なんと言ったか、覚えていない。フラフラと病院の外に出て、ただただひらひらと落ちてくる枯葉を見たのは、覚えている。    葬儀には、呼ばれなかった。 きっと、家族で小さくやったのだろう。 もし呼ばれたとして、あのとき行けたかは分からないけれど。  やっと外出できるようになって、ご飯の味がするようになった。でも、毎日夜になると涙が溢れた。  6年経った今でも、はっきりと君の笑顔を思い出せる。思い出しては、悲しくなって、視界が潤む。  毎年この日に、君の命日に、僕は手紙を持って出かける。 たとえ出せなくても、でも、きっと、君を想うことに意味がある。    いつも僕は二通の手紙を書いている。 一通は、君のご両親に。もう一通は、君に。 君への手紙は、河原で燃やす。 手紙が煙に乗って、空まで届いていたらいいな、なんて思って。 今日は風が強いから、きっと、届いたかな。  あたたかいお茶で冷えたからだを温めながら、また君の写真に目をやる。  写真の中の幸せそうな君を見るたびに思う。 僕との日々は、楽しかった? 僕は、これから、君がいない残りの人生をどうしたらいい?  窓の外を眺める。赤、黄、茶、さまざまな色の葉が地面を隠している。
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