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三日後。あたしは部室で投稿用マンガを下書きしていた。
ストーリーは銀杏伝説から借りた。美貌の女子生徒と教師の切ない恋物語。二十年が経過して娘が伝説の謎と秘密を解き明かす。畠山さんにも伝えて、了解をもらった。
源涼子がノックもせず扉を開き、部室に飛び込んできた。
「二十年前の光瑠さん、見つかりましたわ!」
毎度けたたましい女だ。だが今のあたしは機嫌がいい、許してやる。
「体育祭で活躍した写真とお名前が、古い学級通信にあったんですの」
想像の翼を広げるとき本人を知ることは重要だ。伝説ほど美しくないのは想定内。マンガで美少女に描いても問題なかろう。
だけど真実は、想像の斜めはるか上を越えていた。
「……男?」
でかい。縦にも、横にも。
「これが光瑠って……?」
はっ、と気づいた。
光瑠がいたのは、一階の男子更衣室ではないか。
一階ならトタン屋根は焼却炉を死角にしない。
残る謎の説明もつく。
女子生徒に名前がなかったのも。
「禁断の愛」の本当の意味も。
二人の教師が申し開きしなかった理由も。
「アウティングを避けた……でも、なんでヒカルが身重って伝説が???」
「相撲部の主将でした。高校生で百十キロ、恵まれた体格ですわね」
男子更衣室は相撲部がよく使っている。
「身重って、そういう意味???」
謎はすべて解けた。
なんてしょーもない謎なのよっ!
「光瑠はまげを結うため長髪にし、三年秋に卒業を待たず角界入りしたそうですわ。四股名は銀杏光、最高位は幕下十枚目。でも同部屋のイケ面力士と失踪して破門になり行方不明」
源涼子がキラキラした目であたしを見つめた。
「腐女子が愛するBLマンガは美男同士と思っておりましたが、体の美醜を超えた心の愛こそ本質でしょうか? 涼子、カリスマ腐女子様のBLマンガ道の奥深さに圧倒されるばかりですわ! 新作マンガ、最初にわたくしに読ませてくださいまし!」
「描くわけねえだろっ!」
あたしは「うおおおっ」と雄たけびを上げながら、源涼子が止めるのもかまわず、描きかけのマンガを破り捨てた。
(了)
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