銀杏の光は永遠に ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅢ

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「二階に更衣室って珍しいですね」 「一階と二階は体育館に通じています。柔道場や相撲部の稽古場も近い一階は男子、二階が女子用なんです」  前田部長を外に残して女子更衣室に入ったヴィオラは、ロッカーの間をすり抜け窓に向かった。すりガラスを開け「やっぱり」とつぶやく。  あたしと畠山さんも窓から首を出す。二人の男女が銀杏の木の裏に立っていた。だけど……? 「二人の足だけ……腰から上は二本の幹で見えない?」  ヴィオラは「校内で告白って勇気がいるもの。隠れたくなるわ」と窓の外を指さす。 「銀杏の南と西はグラウンド、東は玄関から丸見えです。だからカップルは木の北側に立つ。玄関側からは植木と百葉箱で見えません。そして二本の幹が邪魔して校舎の二階までは死角になる」  マンガ部室の窓は直上の三階だ。その高さでは二本の幹が離れ、カップルの顔が見える。ヴィオラは窓際席がお気に入り、だから伝説の矛盾に気づいたんだ。 「足は見えてもキスまでは見えない。考えられる理由は二つ。まずヒカルさんが別の部屋にいた可能性ね」 「だけど更衣室は伝説に共通する話だよ? 当時の三階は物置部屋だったし」 「更衣室はたぶん事実でしょう。でも、もう一つ可能性がある。二人がいたのは銀杏の木の下ではなかった」 「……そこにヒカルさんが何かを埋めた?」 「乃々ちゃん、ご明察。それを発見すれば解決ね」と、ヴィオラは笑った。
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