銀杏の光は永遠に ~秋山ヴィオラは、窓際でまどろむⅢ

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 カップルが離れるのを待って、銀杏の下に戻る。 「裏庭の銀杏って一本ですか?」と畠山さん。 「学校の植栽は教育用です。生徒に観察させたりするから、桜以外の大きな同じ木はあまり植えないんです」  ヴィオラは答え、銀杏の葉をゆっくり踏みながら校舎を見ていた。やがて首を振る。 「乃々ちゃん。思い出の場所に文章を埋める意味って何かな」  よくあるのは卒業記念のタイムカプセルかな。 「いつか自分が掘り出すため?」 「半分正解。ヒカルさんが掘るのを期待したのは恋人でしょう。たぶん最後の想いを伝える手紙、それなら相手に場所がわかる目印が必要」  ヴィオラは風に黒髪を押さえる。 「埋めた話はヒカルさんが恋人に伝わるよう、わざと流したと思う。だけど恋人以外に掘り出されないためには相手にだけ伝わるヒントが必要なのよ。だけどヒントが銀杏しかない」  そう言って、腕を組む。 「彼女の手紙なら教師が先に掘ったんじゃないか?」と前田部長。 「それはどうかな」  ヴィオラが納得しない理由は、なんとなくわかる。積極的なのはヒカルさんの方だ。振り切ろうとする側が、元カノの埋めた手紙を掘り起こそうとは思わない。ヒカルさんも半永久的に裏庭に残ることを覚悟し、手紙と伝説を残したのだろう。  アイデアが何も浮かばないあたしは、新聞をもう一度見直す。  写真の銀杏の奥、右に箱形の銀色機械。今は百葉箱がある位置だ。  機械の脇にひざの高さほどの三角の山があるが、印刷が不鮮明で何かわからない。
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