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<芦乃原高校にヒカルという長い黒髪の生徒がいた。
ヒカルは若い教師に恋した。ある秋の日、ヒカルは裏庭で彼と女性教師がキスするのを更衣室から目撃し、彼に駆け寄ってキスしてしまう。噂が広がり、ヒカルは退学した。
身重だったヒカルは二人がいた銀杏の下に恋のお守りを埋めた。「ここで銀杏が散る前に誓った愛は永遠に続きますように……」>
「細川さん。僕とつきあってください」
「ごめんね。山名君とはいい同級生でいたいの……」
銀杏の老樹の下で頭を下げる女生徒。肩を落とした男子が黄金色の葉の上をゆらゆら離れていく。
「男子ってホント発想が貧困でコクる個性ないよねえ」
きょう三組目、一勝二敗。マンガ部長のあたし東郷乃々は、三階部室の窓でため息をついた。
この銀杏には約二十年前から恋の伝説がある。それで秋に木の下で告白する生徒が増え、悲喜劇が繰り広げられる。
「公募マンガの締め切りが迫って人の恋路をのぞく乃々ちゃんに、他人の発想力を責める資格があるかしら?」
窓際席で笑うのは部員の幼馴染み、秋山ヴィオラだ。
「仕方ないでしょ! 次のマンガ賞が学園恋愛シバリなんだから」
あたしは戦記物専門。恋愛物は苦手で筆が進まない。
銀杏カップルにヒントを求めたのはヴィオラの洞察通りだ。だが来る奴来る奴マニュアル通りの告白と回答。一人くらい劇的な告白をする生徒はおらんのか――。
「乃々ちゃん。新聞部のイラスト描けたわ」
マウスをいじっていたヴィオラがカラーイラストを刷り出した。
新聞部の前田部長が「新設マンガ部の絵を学校新聞に載せたい」と言ってきて、パソコン画が得意なヴィオラが引き受けた。第一号は銀杏の葉が舞う中で寄り添うシルエットの男女。
「秋らしくていいね。届けちゃおう」
さっそく二人で新聞部室に向かう。
「マンガ部のイラスト上がりましたあ」
扉を開くと、前田部長が他校の女生徒と話し込んでいた。
「お邪魔でした?」
「かまわない。こちら応忍学園高校、新聞部長の畠山さんだ」
私立応忍学園は県内一の進学校。畠山さんは長い髪を編み、眼鏡をかけていた。
「先輩、ご注文のイラストです」
ヴィオラが渡すと、畠山さんが「あ」と声を出した。
「それ芦高の銀杏伝説ですよね?」
「そうですけど」
芦高では有名だが、他校の生徒がなぜ反応するのか。
すると前田部長が「ちょうどその話だった」と言った。
「応忍学園にも芦高の銀杏伝説があって記事にするそうだ」
「応忍にも?」
畠山さんがコピーを見せる。
「この秋に学校で話題になって。ルーツを調べたら十五年前の学校新聞に取材記事がありました」
応忍学園の新聞には「芦高の銀杏伝説、本校にも関連?」という記事と伝説が載っていた。
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