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「いまなにしてんの」
電話に出るなり、彼女は無遠慮に言った。
「嵯峨君と待ち合わせしてるんだよ。なに、急用?」
「また嵯峨? なに、あんたら24時間ずっとそんな感じなの!?」
それから、笑い声が響く。どうやら今回も急用ではなさそうだ。
「言っただろ。ライブなんだよ」
「あー、はいはい。暴走族ね」
面倒なので、訂正はしない。反応がないとわかっても、彼女はめげずに言葉を続けた。
「この前さー、お母さんとふたりでお兄ちゃんの話をしてたんだけど。で、会話がちらっと聞こえたんだろうね。お父さんがいきなり『あいつはなんで白装束なんか着てるんだ!?』って割り込んできて笑っちゃったよ」
「なんだよそれ、ぞくしか合ってないじゃん」
「お母さんが、白装束じゃなくて暴走族だよってフォローしたら、お父さんがまた、え?みたいになって。ふたりのやりとりに腹がよじれた」
すぐにその光景が想像できて、古里も笑った。
彼らはたびたび言い間違いをする。夫婦揃っておかしなことを言うたび、今のように游と笑ったものだ。
「ねー、お兄ちゃん次いつ帰ってくるの。お母さんが気にしてたよ」
游が言った。おそらくこれが今日の本題なのだろう。
最後に帰ったのは父親の誕生日の3月ごろだったから、もう半年近く顔を出していないことになる。
「来月の、お母さんの誕生日には帰るよ」
「誕生日ってことは第二週の土日?」
「二週じゃなくて三週がいいかな」
二週目の土曜日はちょうどあやとの誕生日だから、嵯峨から誘いを受けるかもしれない。
游はその言葉の含みを見逃さなかった。
「あーはいはい、また嵯峨君と約束? ほんと仲良いね」
「いやべつに……」
仲良いねが意味深に聞こえて、咳払いをする。
実際は游の想像の範囲をはるかに超えているだろう。
「もうさ、実家連れてきちゃえば?」
「はあ?」
「そろそろ挨拶ぐらいしてもらわないとねー」
「ばか言うなよ」
游からしたら、いつもの戯れにすぎない一言なのだろうが、見透かされているのかと思い、古里は内心、気が気じゃなかった。うまく笑い飛ばせていただろうか——
彼女とはそれからいくつかやりとりをして、電話を切った。
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