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「今日の生配信、絶対に古里さんとみたかったんですよー」 嵯峨は濡れるのもおかまいなしに、ジョッキの水滴が垂れたテーブルに肘をついた。 「今日はのコンビだもんね」 古里が返した途端、表情がふやける。 「そー! このふたりが絡むことって実はそんなに多くないじゃないですか。だから貴重だなって。まだ火曜だし、飲みに誘ったら悪いかなって思ったんですけど」 「悪くないよ。俺もこの日のために仕事頑張ってたようなもんだから」 「よかった。両思いだー」 センターで分けた長い前髪の合間からのぞく額は、綺麗なカーブを描き、頬と同様、瑞々しい丸みがある。 人懐っこい印象を与える童顔に対して肩幅は広く、無邪気な子供に長い体躯がついているようなそのアンバランスさが、異性の目にはさぞ魅力的に映るのだろう。 つぎ会う時は夏ですかね—— 別れ際にそう話してからすぐ、空をそっくり取り替えたように、夏がやってきた。 それから古里は、彼に与えられた夏の時間のどれぐらいを、彼が自分のために切り分けてくれるのかを、ずっと考えていたのだ。 だから、先週に誘いを受けたときは本当に嬉しかった。 業務を前倒し、夕方からのアポイントを入れないよう、綿密にスケジュール調整をした。 「かなでが出る映画、来週公開ですよね。古里さん、観に行くんですか?」 「うーん……どうしようかな」 嵯峨はちょうどピンポン玉が入るぐらい唇を開き、え、と発した。 「行かないんですか? 自分の推しが出るのに?」 「少女漫画原作の学園ものでしょ。ちょっとなー。俺がひとりで行ったら浮くからなぁ」 成人男性がひとりでウキウキと観に行けるジャンルではない。 躊躇はもちろん、もともと出不精なこともあり、配信されるまで待とうと思っていたが、意外そうな嵯峨を前にしたら、なんとなく言いにくくなってしまった。
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