壱 生きてたいヨッシーとして食みながら

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 いただきます。  つるッとな。  湯気にほっこらまじるマーガリンとバジルのあまくオイリーな香り。  ほどよい分量をくわえた梅昆布茶粉末の日本人でよかったと痛感させるうまみたっぷりな塩っけ。  もぐもぐ。  ひとくち飲みこみ、吉井は大きく息をした。 「あー‥‥うまいです」 「でしょうでしょう、ほっほっほ」  食べて体活かして生きてゆく。  たとえ食べモノがまったく怖くなかった世界のことを思いだせなくても、過去から続く自分をつれて明日の私へ光り繋いで、この世界に干渉できること受肉できたことをたっとび私を好きで生きてゆこう。  空が青いことを、忘れずにどうか。  母なる地球に守られていることを胸にすえ、不安になることがあってもいい、安心を知っているから不安になれるんだ。  呼吸深く安心を全身満たし、おいしい珈琲でも片手にカーネルと見るテレビ。  海王の民がとまどっておるな。  いいねェ若いのが迷い悩み悶々とする姿。  人間してたら鼻っ柱へし折られることいくらでもあるから、今のうちに苦渋の味をよく知って将来にそなえるとよいよ。  絶望が苦いほど希望はあまったるいぜ。  おいしいよたまらんよ。  生きる意味わかんなくても、じゃあ本など読みなっせ。  いつか読んだ本で『本はどんな世界へも連れて行ってくれる船』と書かれていたことを、吉井は胸のなかに額装して飾ってある。  魂を彩るモノとして、ページを開けばどこにでも行けるんだ。  宇宙服を着ずに宇宙のはてめざし冒険だってできる。  まったく知らなかった世界に素敵なドレスまとって踏み入ることだってできる。  とにかく、魂のお洋服たる体はそこのままでもどこへでも行けるなんだってできるワクワクする。 「今は何を?」  食卓をかたづけたカーネルが、エプロンはずし吉井のとなりに座った。  吉井は本を読んでいる。 「押井守監督の語り、と、『新世界』に『ゆびさきと恋々』を。長野まゆみ先生、ずっとお慕いしております‥‥たまりません。雪ちゃんも健気だな、応援してるよ。少女漫画のピュアな恋はいーねェ」 「本当にお好きなのですから」  カーネルもシルクハットから雑誌を取りだしめくった。 「それは?」 「公募ガイドですぞ。私の芸術の秋の指針よ」 「カーネルも表現するんだ」 「ええ、もち」  ペコがもういちど立とうとしてる。  飛べ。  飛べ。  飛べ!  道頓堀にでも海原にでも。  阪神勝ったし。  死んじゃわないで今日を生きて、早寝して早起きしたら、外に出て朝の透明な空気をめいっぱい堪能できる健康な心身でさァGOファイト!  道が明るいかも暗いかも、歩きやすさももしか綺麗な景色も、自分次第。 「生きるか」  本を手に屋根も大気圏も越えたずっとむこう宇宙を見すえ、吉井がつぶやいた。  カーネルはもちろん聴きとった。 「ええ。わたくしも伴走のこと、どうぞお忘れなく」 「うん」  今日はちょっとオフの日だった。  でも食器洗ったしお風呂は掃除したから、相方に自慢したい。  キャベツの副菜だってこしらえた。  晴れた日には洗濯物の外干しがなんともぬくい。  週末になったら、また、音楽で心の調律にデイケア行っとこう。  社会参加の一歩二歩。  深空の地を駈けネットをめぐる、人生と云うたいせつなことをしてゆく日々よ。
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