伍 銀の錫杖月の砂子に

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伍 銀の錫杖月の砂子に

 あ。月  白いのが儚く空に居た  電車に乗って車窓から  ほんのり桃色の空、高く遠くに半月がうかぶ  なんか嬉しかった。  綺麗だ  生活、なー。  定職に就けてて働きヒト並みに暮らしている  不満はない  SNSで何かしら書いていてそれが楽しい  そんなアマチュア作家生活にて噂がいつからかあった。  銀の錫杖の者モノ  平和の歌を唄っているそうして世界の統率をとっているヒト達が居る  生者でもなく死者でもない存在  自我すらない  なんだそれ  でも面白いなァ、と、なんとなくモチーフに一文書いて、置いておいた。  いいね、がいくつかついた。  ふむふむ  いくらかが経ち疲れた仕事の帰り道  今度は花田色の空に満月が居た  電車に乗って車窓から  砂子を撒かれた雲が儚くたなびくそこに、ヒトも居た気がする何人か  見まちがいだろいくらなんでも  あれは噂。  でも消えた噂じゃない  そうなりたい?  世界の統率をとる者に?  自分みたいなパンピーがなれるものか  でも  銀の錫杖の者モノは、みんな元ヒト  まさかなァ、と電車を降り暮れてゆく空の下商店街を歩く  晩めしなんにすっか?  老若男女が行き交い、美味しいにおいがあちらこちら  大きな声小さな声エンジン音  夕方の盛況な様は健全でうれしい  ずっとこの光景があればなァ  肉屋の前を通りかかった  特製のコロッケとメンチカツが目について吸い寄せられた  ふら  一陣の風がふく  あれ  もう地上が遠かった  あれよあれよと体が舞いあがる  戸惑うと云うよりも、  あきらめと云うよりも、  自分でいいのか? と、考える間に手には銀色の錫杖がにぎられていた。  青い肩布のついた白い衣がひるがえる  鳴る鈴  歌  唄う  すべては魂から沁みだし、なにもかもを理解する  今の自分と同じ者モノだ、と認識できる存在達が集ってくるのがわかる  あー、そっかー  自分がうすらいでゆく  死ぬんじゃないこと、  その認識による安心に胸が浸り、  あとはただやすからで、空をたゆたった。  歌  大気に溶ける歌とともに  そこで唄っている  それのみがわかる宇宙のほとり  シャランと錫杖が鳴り遠くどこまでも響くこの歌がずっと。
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