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七 サムライアプリ 原案・イレウス氏
二十一世紀の後半、日本は軟弱な殻を脱ぎ捨てもういちど武士の志し高き強い国に返り咲けておった。
二十四時間もちろん戦えるジャパニーズ・ビジネスマンの復活だ。
くノ一として名高いジャパニーズ・ビジネスウーマンだって居る。
そう云う時代だ。
今日も今日とて彼ら彼女らは、それぞれの武装し基底現実をネット空間を、ビジネスとあらば華麗に駈けぬけている。
必須アイテムがあった。
さァそれは?
某会社にてとある取り引き決定の会議が行われている。
会議室にはたのもしき武士・女武士が背すじ正しく座していた。
畳敷きの席に胸張って。
司会進行、このプロジェクトリーダー・轟はマイクにぎり歯切れよい発声にて着々とことを進めていた。
が。
ひとつミスがあった。
ほんの見落としなモノの、ややざわつく会議室は彼にとってとんでもない失態だ。
顔色が変わる。
覚悟をキメた。
「まっこと、申し訳なくにて候!」
「うむ!」
上座に威風堂々、座していた重役の前に轟は歩を進める。
「もう覚悟をお決めに」
「さすが轟先輩」
ひよっこ新米らの頬染まるなか、轟は白い布をサッと取りだしサッと敷く。
布の上に膝をつき、スマホを正面にすえ座ってかまえ。
スーツはだけた己が腹部に腹切刀をつきつける。
会議スクリーンにはもう仕事どうこうではなく、スマホアプリを経由した一部始終が投影されていた。
『介錯いたす!』
あくまで自然な風合いの、それでいて凄みの効いた機械音声が響き、その姿を介錯人として視覚的に結んだAIが轟の背後に刀かまえて立った。
スクリーンの中で。
水を打ったように静まりかえる室内。
固唾をのんで見守る面々に、緊張が走る。
「いざ!」
刃を突きたてた。
スクリーン内の轟の腹部より鮮血がふきだす飛び散る。
「ぐァ!」
ほぼ同時にリアル轟の体に電撃が走る。
痛みに歪む顔。
本物の痛みに歪む顔。
されど日本男児として恥ずかしくないその、様。
「美事なり!」
重役の咆哮。
Wooooo!
室内いっぱいの喝采。
気を失った轟は医務室にはこばれた。
会議室に残った者モノの面には、ひよっこなら先輩への心配と尊敬の念の色、同輩ならば我らが誇りとたたえる色、重役からはデキる部下への満足げな笑み、などがうかんだ。
腹を切る際、刃はひっこむが電流のながれる腹切刀。
よって轟は大事に至っていない小一時間の休息のち会議室へもどれたから安心してくれ。
開発当初は痛みなどなくARで血飛沫から苦悶の表情までリアルに再現できる機能で流行ったが、当人がそこまでラクしてなにが日本男児か? と、討論のすえこう進化した。
つまり、犯した罪は我が身に痛い思いしてきちんと償おう。
見るほうはあまりにリアルな作りモノたァ云え血飛沫くらいでうろたえんじゃないぞ。
その結果生まれたこれぞジャパニーズ・ビジネスマン必須アイテム。
大和魂『サムライアプリ』!
世界中でムーヴメントがおきている。
わけもなく、生魚や納豆喰うのと同じくらい海外ではクレイジーあつかいだ。
が、それでこそサムライの国、と崇められているのも確かな話だ。
極東の島国、ここ。
ふたたびたぎる熱き血潮よ。
日ノ本の国に、幸よアレ。
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