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間に合うのかは分からない。思惑に乗ってくれるかも分からない。ディヴィッドが死神になっていたなら、どこで死神をしているのか想像もつかない。
そもそも私には死神が見えるだなんて、きっとディヴィッドは知らない。だから現れてくれないのかもしれない。
優しい彼が、知り合いの多い土地で命狩りなんかしているかな。知らない土地で助からない人の命に許しを乞い、ノルマを達成しようとしているのかな。
私はディヴィッドが不本意な行動を取ろうとしているなら、それも邪魔してやる。
「ディヴィッドが死神になっていたとして、彼が誰かに鎌を振り下ろそうとしていたら、私はそれも邪魔してやる」
『……理由を聞こう』
「彼はそれを一生引きずる。そうしてまで生き返った自分を一生責め続ける。そんな人生の中で、私を真っ直ぐ見つめてくれるとも思えない」
『この男は随分と信頼されているのだな』
「まあね」
ディヴィッドが死神になっているなら、もうそんなに残された時間はないと思う。ブラックにも余裕はない。
ブラックが私の前に現れてくれなかったら、私はディヴィッドのために何かしようとは思わなかったと思う。
悔やんで、残念がって、苦い思い出で片づけていたと思う。
だからブラックには感謝しているの、厄介だけどそれは本当。
「徹底的にやりましょ。全部、全部邪魔して、全部の死神を味方にして、黒幕が私に接触せざるを得ない状況を作る!」
お金にはならない。多分私の目的を応援してくれる人もきっと現れない。スーパーガールのように皆に活躍が見える訳でもない。
今までの私だったなら、きっと人助けしたのだと恩着せがましく振る舞った。でももう考えを改めた。これは私が私のためにやる事。
ディヴィッドが目覚めたとして、両親の説得で私を諦めてもいい。プロポーズしてくれなくていい。
お礼なんてそもそも期待していないし、信じて貰おうとも思ってない。
私だけに彼を救える可能性がある。私の事を愛してくれたディヴィッドを見捨てられないだけ。
自己満足で結構、私が後悔しないために、私がやる。
「夜だけど、出来る事はある? 通りを行き交っていた死神はどこに?」
『……心当たりは、ある』
「行きましょ」
いや、待って。死神が集まりそうな場所? え、どこ? まさか墓地とか?
「え、やだ、私幽霊とか苦手なんだけど! まさか墓地とか言うんじゃないでしょうね」
『死人に用はない。安心しろと言っても、あまり良い場所とも言えないが』
「あー、出来れば雰囲気の明るい所がいいわ」
『期待には応えられない。そこの角を右に』
さっきは一瞬決意して、やってやろうじゃないって思った。でも怖い場所に行くのは無理。心霊スポットとかお化け屋敷とか、絶対無理!
辺りは薄暗くなって、路地に入ればもう真っ暗。ビルの間の車も入れなさそうな道の先は、大通りとは全く別の空間のよう。路上生活者はあまりいない地域だけど、お世辞にも安心して歩ける雰囲気じゃない。
大通りを東へ直角に曲がり、数分も歩けば人もまばらになる。その更に路地なんて、雨も降っていないのに、剥がれた石畳の跡に水が溜まっていて薄気味悪い。
手摺が壊れた階段、屋外灯のない扉、壁には意味不明な落書き、放置されて朽ちかけた自転車。
今時男だから女だからと言うつもりはないけれど、女1人が歩く場所じゃないと思う。
『安心してくれ、変な輩がいない事は確認した上で案内している』
「……ええ、信じるわ。キャッ! 今の何!?」
足元を何かが駆け抜けた。動物? 虫?
『ねずみだろう。そこの扉を』
「……嘘でしょ、これ何? 廃ビル? 不法侵入で捕まるのは嫌なんだけど」
『この中に集まっているのだから仕方がない』
持ち手はステンレス製なのに錆が浮き、窓のない扉は軋む音を立てて外に開く。
スマホのライトを点けて中を照らししつつ侵入すると、暗くて長い廊下が続いてた。左右には等間隔で部屋の扉が並び、ご丁寧に灰色の壁紙は隙間なく落書きされてる。
もし死神の存在を知らなかったら、一生こんな所を訪れる事はなかった。私は非行グループや、心霊スポットや廃墟を巡るグループには属した事がないの。
まあ地元が田舎過ぎて、そもそもこんな場所が付近になかったんだけど。
『この先の右の階段を上がる』
「……はぁっ!?」
私の素っ頓狂な声が響き渡った。誰もいない廃墟でこんな声を出せば、どんな事になるか分かっていたのに。
「ちょっと、1階の入り口から何歩も歩かずに足震えてんのよ!? そもそも路地を……」
ブラックに抗議していたら、上からゾロゾロと黒い何かが降ってきた。階段からも、天井からも。まるでスマホのライトが照らす薄暗い空間が急に狭くなったよう。
その理由を確かめないうちに、私は悲鳴を上げてしまった。
「キャアァァァーーーッ!」
叫ぶと同時に、足は勝手に出口へ向かう。扉を出てすぐに向かいの壁に激突し、蹲った所でようやくあたしは我に返った。
薄暗い路地は静まり返り、誰の姿もない。
周囲に誰もいなくて良かった。もし誰かに聞かれたり見られたりしていたら、私完全に頭のおかしい人だもの。
廃墟から叫びながら出てきて、壁にぶつかって蹲る女。まるでコメディ映画のヒロイン。
「……幽霊?」
『そんなわけないだろう』
「キャッ……ブラック!? 脅かさないで!」
『勝手に驚かれても困る。ほら、前を見てくれ』
ブラックが鎌で扉を指し示す。あたしが視線を向けると、十数体の死神が集まっていた。
「あっ……」
『あれだけ騒げば何事かと思うだろう。どうする、俺が説明しようか』
「あっ……いえ、私が説明する。その前に確認させて」
死神とはいえ、元は人間。断られるかもしれないけど、話しは通じるはず。元々説得と話し合いをするつもりだったのだから、ここで逃げる訳にはいかない。
作戦を伝えて1体でも多く味方につけなくちゃ、ブラックもディヴィッドも元に戻れない。私のせいで2人の未来を潰したくない。
「あの、私はジュリア。死神にちょこっと魂を削られたせいで、あなた達が見えるようになったの。お願いがあるから聞いて欲しくて、会いに来た。どうかしら、聞いて貰える?」
死神達は1つの場所に集まっているだけあってか、それなりにコミュニティを形成しているみたい。互いにヒソヒソ話し合い、私にどう接するかを考えている。
『俺達の事が見えるのか』
『うっそ、それならこっちも頼みがあるんだけど!』
『なあ、声も聞こえるんだろう? 俺の言葉は分かるか?』
死神だから、多少なりとも私を狙う動きを見せると思ってた。なのに意外にも私を「獲物」として見ていない。それどころか、まるで人として活動している時と変わらない雰囲気。
「ええ、見えるし、分かるわ。もちろん出来る協力はするつもり。話し合い出来るってことでいいかしら!」
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