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室内は大騒ぎとなり、医者と看護師が大勢やってきた。点滴の袋の中身は間違いで、しかも血管に刺さっていなかった。
交通事故、雷、そして医療ミス。この数か月で3度も死の経験。こんなのって、ある?
『しばらく、身の回りの出来事に気を付けた方が良い』
「……あなた、誰にも見えてないのね。幽霊なの?」
『端的に言えば死神か。色々と訳ありでね』
「ああ、そう……死神?」
死神……私の命を奪いに来たってこと?
ちょっと待って、待って欲しい。私はそこまで信心深くないし、なんなら幽霊だって信じてなかった。怖いけど。
でも、でもね? そもそも死神と言われて信じる奴がいる? 悪魔でしょ? キリスト教徒相手にイエス・キリスト以外の神を名乗るって、大丈夫なの?
死神なんて所詮は大昔の事故や、説明がつかない未知の病気に対するこじつけに過ぎないわ。魔女と一緒よ。
『とにかく、これ以上哀れな目を向けられなくなければ、暫く俺に話しかけるのは止めた方が良い』
何、どうして。私はどうして死神に追われるようになったの?
とにかく、とにかくよ。私が今病室にいる理由や状況は分かった。
1つ言えるのは、私には見えていて、みんなに見えていない誰かがいるということ。私がまだ夢を見ている可能性もゼロじゃない。
「……目的は何? 死神なら何でさっき私を助けたの」
『その話は後だ。大勢がいる所で俺と会話をすれば、見えない何かと話をする様子のおかしい患者に映ると伝えたつもりだが』
あーんもうムカつく! ヤな奴!
怪しくておかしいあんたに言われたくないんだけど!
そもそも死神の意図は何? 私がおかしいと思われることを何故死神が気にするの?
私が騒いで、エクソシストが来たら除霊されちゃうから?
いや、はたして死神は霊なの?
「ジュリア?」
苛々していると、心配した母に顔を覗き込まれた。まずい、冷静にならなくちゃ。
さっきから機械に繋がってる心拍数表示が凄い事になってるし。
「えっ……ああ、ごめんなさい。視界がぼやけていて、皆の姿が重なっちゃってたみたい。もう大丈夫」
「本当に大丈夫? 大丈夫じゃない人に限って自分は大丈夫って言うものよ」
「じゃあ何て言えばいいのよ。霊能力に目覚めたから助けて! って? だったら病院じゃなくて教会に行くべきね、退院したらシスターになるわ」
待った、教会? 私、教会って言った?
そうよ、死神が教会に入れるわけないじゃない!
何でそんなことに気が付かなかったんだろう!
シスターになるつもりはないし、そんなに信心深い方でもないけど、建物内には入ってこれないよね。信仰心の強弱に関わらず、教会への出入りは自由。
「とにかく! 喪服はなし! 私は大丈夫!」
お礼は言いつつ、他の人に迷惑だからと全員を帰らせた。私は明日から検査、そして検査。
死神なんて関係ない。落雷の酷い痕を背負いながら、私はこれからも生きていく。
「ハァ、何でこんな事になったんだろう」
『それは、俺の事が見えるようになった事か』
「それもあるけど! 交通事故、恋人は昏睡状態、その親は私を悪魔呼ばわり。仕事は職場の倒産で解雇、雷に撃たれて入院、水着が着れない体に」
そもそも水着なんて着る予定はないけど。ウエディングドレスも肩を出さないものになるわね、着る機会があれば。
「とりあえず、点滴の件は有難う。私のお迎えじゃないみたいだけど」
『ああ』
死神は短く返事をして窓の外へ。それからも点滴の交換に合わせて戻ってきては、間違いがないかを見てくれる。
これ、私にだけ姿が見えるからって、懐かれちゃったのかな。
今の私は不幸続きが幸いし……いや不幸いし、死神に懐かれた無職の女。
文字に起こして冷静に読み上げたら、きっと残念な響きなんだろうな。
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