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1st.
俺は10代の頃にもう生涯の伴侶と出会ってしまった。
彼と出会った時、懐かしさを感じた。
どこかで会ったことがある。
いや、長い時間を共にしたことがある。
だから俺たちは仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
誰にも話せないことも彼には全て話した。
彼も同じように。
俺はあまり人と接するのが上手くない。
いつも言葉が足りなくて、相手に誤解される。
そんなことが多々あった。
でも彼はそんな俺を理解して受け止めてくれた。
なんならそんな俺の足りないとこを補ってくれた。
そのおかげで友達も増えて楽しく過ごせた。
彼と出会って一年。
俺はほぼ毎日彼といた。
彼の存在なくして自分がないように感じるくらい。
もし彼がいなくなったら、そう考えると何故か涙が溢れる。
不思議な感覚だ。
そんな話をすると彼は笑わずに、俺も同じだと言った。
ずっと一緒にいたい、とは言えなかった。
俺たちは男同士で、お互いゲイではない。
いずれ彼女ができて結婚して家族ができる。
それが当たり前の幸せだ。
この関係が永遠でないことは分かってる。
今みたいに毎日一緒にいることはなくなる。
もしかしたら一年に一度会うか会わないか。
男同士の友情なんてそんなもんだ。
そうだとしても、今の自分には彼がいない未来を想像することはできなかった。
「なぁ、お互い結婚して子供できたら一緒にキャンプとか行こうよ。」
そんな話をしたことがあった。
でも彼は、
「俺は結婚はしない。子供もいらない。」
と言いはなった。
「え?なんで?」
「お前に出会っちゃったから。多分この先、どれだけの人に出会ったとしてもお前を越えられる人間は現れないよ。だから俺は結婚はしない。」
そう言われた時、俺は何故か納得してしまった。
それは愛の告白よりリアルだった。
今、ここで俺が彼にキスでもしたらもう後戻りはできない。
そう思った。
だからしなかった。
彼も俺に近づきはしなかった。
いや、一度だけ家に泊まった時彼に抱き枕にされたことがあった。
彼に触れられてると落ち着いて、安心できた。
今思うとあれが幸福感ってもんなんだと分かる。
でもあの一度きりだった。
高校卒業間近、俺は彼と二人で旅行に行った。
初めてビールを飲んだけど、苦すぎて一口しか飲めなかった。
「なぁ。高校卒業したら一緒に住まない?大学も近いんだし。」
「...いや、高校卒業したら会うのよそう。」
「え?」
「お前は俺と違って普通に恋愛して結婚して子供欲しいんだろ?だったら俺といるべきじゃない。」
それは予想としてない返答だった。
「会わないって、二度と?」
「そう。連絡先も消す。どっかですれ違ってもお互い他人だ。この旅行でそれを言おうって決めてた。」
「そこまでしなくても。」
「そこまでする必要がある。俺たちには0か100しかないんだよ。」
「なんで?」
「俺たちってずっとこうして出会っては別れてを繰り返してきたんだと思う。お前の側にいたいけど、それは叶わなかった。お前は俺とは違うから。これが例えば恋愛だったら付き合って別れてで済んだんだ。でも俺たちはそうじゃない。好きとかそういうことじゃない。」
「友達でいることもできないのか。」
「だって友達じゃないだろ。まぁ、死んだらまた会うことになるよ。それまでさよならだな。」
彼はそう言うと飲めないビールを飲み干した。
その横顔を俺は死ぬ間際に思い出した。
俺の人生はそれから、何一つ思いどおりにはならなかった。
恋人ができ、結婚して、子供もできた。
だけど俺はずっと満たされないままだった。
良き夫、良き父親を上手く演じていた。
演じられていた。
彼が死んだと聞くまでは。
彼は56という若さで亡くなった。
不慮の事故だったそうだ。
あの時言ったとおり、彼は結婚せず独身のままだった。
棺の中で安らかな顔で眠る彼を見て俺は後悔した。
俺は彼といるべきだった。
いや...彼とずっと一緒にいたかった。
俺は良き夫、良き父親を続けられなくなって一人になった。
そして死ぬ間際、今度生まれ変わって彼と出会ったら絶対に間違えないと固く誓った。
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