3rd

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3rd

「愛してる。」 出会って三日の男にそう言われた。 彼は転校生だ。 転校初日から変だった。 俺を見る目がおかしかった。 まるで探し物を見つけたみたいな顔をした。 17の男が男に愛してるなんてどうかしてる。 が、彼は至って真面目だった。 「ありがたいけど、何かの間違いじゃないのか?」 そう言うと彼はハッと我に返った。 「いや、顔見たら言わずにいられなかった。ごめん、突然。」 照れて真っ赤になった耳。 「俺たちってどっかで会ったことある?」 「あると思う。」 「どこで?」 「分からないけど。多分ここじゃないどこか。」 そう言うと彼はスマホを見せてきた。 それは小説だった。 ネオングロウというタイトルの。 「この小説読んでるとまるで自分のことのように思えて。」 「え?」 「これは俺なんじゃないかって思った。」 「それは共感能力が高すぎるだけじゃ。」 「他の小説読んでもそうは思えなかった。」 「これ誰が書いたの?」 「分からない。でも投稿日は今から20年も前。あとがきに」 次の俺へ、早く彼を見つけて愛してると告げてくれ。 そう書いてあった。 作者はもう亡くなってるんだろう。 次の俺、って。 「俺が次の俺なのかもしれない、と思った。」 「なんで?」 「分からない。お前に愛してるって言ったのも何故か分からない。でも言えって言われてる気がした。」 「よく分からない。」 「だよね。俺も言っててよく分からない。」 「これも何かの縁だし、友達としてよろしく。」 そうは言ったが、俺もモヤモヤしてた。 もし彼が言うように次の俺が彼なんだとしたらその相手は俺ってことになる。 小説の中の俺は全部分かってたけど、彼を縛りはしなかった。 恋愛の甘さが全くない。 それがとても不思議だった。 普通、運命の相手を見つけたらのぼせ上がるもんじゃないのか? ずっと一緒にいたいとか思わなかったんだろうか。 何故彼を追いかけたりしなかったんだろう? 疑問はたくさんあったけど、一番は 俺は幸せだったんだろうか? ということだ。 小説の中にはそこらへんの心情は書かれてない。 そんな話を彼とした。 「俺も二人は幸せだったんだろうか?って思ってた。」 「だよな。」 「淡々としてるよね、二人とも。なんでなんだろう。」 「二人でいる時間が少なかったから?」 「でも再会してからなん十年一緒にいたのに?」 「もしかしたら時代背景がそうさせてるのかもしれない。ほら、今から20年前に男同士が恋愛するなんて考えられなかったんじゃないかな。」 「まぁ、確かにそうか。」 「だから二人の間の関係性も友達以上ではあったけど決して恋人にはなり得なかったのかもしれない。」 そう考えると合点がいく。 「じゃあ今の俺たちならどんな関係になる?」 そう聞いた後、しまったと思った。 「試してみない?」 そう言った彼の目は誘惑の目をしていた。 多分本人自覚ないんだろうけど。 俺はそのまま彼に吸い寄せられるようにキスをした。 それが俺と彼の次の始まりだった。 時代が移り変わりつつあるとは言え、まだ人前で堂々と手を繋いで歩くことはできない。 でも時間を重ねるにつれ思うようになった。 周りのカップルはお互いに自分の理想を描き、それを押し付けて喧嘩ばかりしてるのに俺たちはとても平和だった。 彼の短所も長所のように愛し、受け止める。 彼ができないことは俺がすればいいし、俺ができないことは彼がしてくれる。 役割分担ができてるから喧嘩にならない。 不満があるとしたら、ゲームをする時一切手を抜かないから俺が負け続けることぐらい。 コソ練してもなかなか勝てない。 推薦で一足先に大学が決まってる彼はよく泊まりこみで勉強を教えてくれた。 テストの結果が思わしくない時も励ましてくれた。 そのおかげで俺は無事第一志望の大学に合格した。 俺たちは遠距離になったが、毎日のように連絡を取り合って時間を作って会いにも行った。 俺をそうさせたのはもしかしたら前の俺なのかもしれない。 と時々思った。 あと、ただ単純に彼と一緒にいたかった。 彼といると本当の自分でいられる。 子供の頃から父親と反りが合わず、いつも居心地が悪かった。 父親の顔色ばかり伺っていた。 だからか友達に対してもどこか気を使って、本音で話せなかった。 どうせ話しても分かってくれない。 そんな風に思ってた気がする。 あの小説の中の俺もそうだったのかもしれない。 「大学の卒業旅行、台湾に行かない?」 「なんで台湾?」 「台湾は同性婚が認められてるから。堂々と手を繋いで歩けるよ。」 「へぇ~、いいね。」 「手を繋いで歩きたかったでしょ?」 「それはお前の方だろ?」 「バレた?」 そう言って笑う彼を見てると愛おしくなった。 「愛してるよ。」 そして咄嗟にそう言った。 彼は驚いたけど、 「俺も愛してるよ。」 と返してくれた。 「やっと愛になったんだね。」 「何年かかったんだろな。」 「それぐらい、愛っていうのは貴いものなんだよ。」 「でも俺は出し惜しみすることなく伝え続けるよ。きっと山ほど後悔しただろうから。」 「そうだね。俺もそうする。」 こんな広い世界でたった一人、愛し合える人と出会えるのは奇跡だ。 でも奇跡だと気付くにはあまりに時間がかかりすぎる。 俺と彼の始めの人たちはもしかしたら、すれ違っても気付かなかったかもしれない。 俺たちが今こうして肩を並べていられるのは沢山の時間の積み重ねがあったからだ。 俺は彼を慈しみ、労り、愛する。 次の俺たちがまた幸せになれるように。                おわり 「やっと書き終わりました。タイトルはネオングロウにしましたよ。」 編集部に先生から電話があった。 スランプから抜け出し、筆を取るまで一年を費やした。 担当として上からもかなりプレッシャーかけられて冷や冷やしたけど。 先生の嬉しそうな声を聞いて全て吹っ飛んだ。 原稿を取りに家に行くとニコニコしながら珈琲を入れている。 「まだ書き終わっただけで直してもらいますからね。」 「分かってるよ。」 「でも本当によかった。もう先生の本読めないかと思いましたよ。」 「俺ももう書けないかと思ってたよ。でも一ファンの為に頑張った。」 「一ファン?」 「君の事だよ。君に読ませたくて、その一心で書いた。」 「え?ほんとに?」 「そうだよー。」 嘘に決まってる。 そう思いながら珈琲を飲み、原稿を読んだ。 読み終えて感想を言おうと思ったら先生はいなかった。 無駄に広い家を歩き回り、2階のベランダでたばこを吹かしてる先生を見つけた。 「読み終わりましたよ。」 「どうだった?」 「直して欲しいとこはありますけど、まぁ大まかには良かったです。」 「そう?良かった。」 「これホントに誰のために書いたんですか?誰かのために書かれたように思えたんですけど。」 「言ったじゃない、君だって。」 「いや、冗談でしょ?」 俺がそう言うと先生は眼鏡を外して俺の手を取った。 「愛してる。」 そう言われて、俺は何故かなにも言えなくなった。 「書き終えたら言おうと思ってたんだ。もう前の俺みたいに後悔したくないから。」 「なに言って。」 「いいよ。時間をかけよう。例え、今の俺たちじゃなくてもいいんだ。」 そう言って抱き締められた。 「先生、いつから?」 「インターホン越しに君を見たときから。あの小説を書かせたのは君だよ。」 「続き読みたいです。」 「じゃあ側にいてね。」 俺は抱き締められながらふと思い出した。 先生の顔を初めて見た時、懐かしい匂いがしたことを。 どこかで、何度となく、すれ違ってきたような。 それでいてずっと側にいたような。 俺が愛してると言えるまで、あとどれくらい時間がかかるか分からないけど、それでも先生は待っててくれるような、そんな気がした。 「そういえば、なんでネオングロウなんですか?」 「あぁ、それはね...」
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