幼なじみ

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 洸希の放つ明かるい空気と酒の力で、俺たちは殺伐とした戦場の気配を忘れ陽気な時間を過ごした。  酒は進み、話題に下ネタも混じりだす。そうなると飲酒のブレーキは効かなくなり、あっという間に貴重な日本酒は空になった。洸希たちが持ってきた他の酒もなくなったが、まだまだ飲み足りない空気が漂っている。俺は仕方なく、秘蔵の海外製缶ビールを取り向かった。  台所の小さな冷蔵庫に仕舞ってあった缶ビールを手に戻ってくると、あれほど賑やかだった室内が静かになっていた。  何事かとおそるおそる座っていた場所に戻ると、それに合わせるように洸希が持っていた缶を床に置き、俺の方を見据えてきた。 「…………なあ、陽介。お前、なんか悩んでんのか?」  少し赤ら顔になった洸希が笑顔を消し、真剣な面持ちで尋ねてきた。それは他の仲間も同様で、一様に心配そうな表情をこちらに向けていた。 「な、なんだよ。突然……」  場の空気を変える唐突な問いに動揺し、思わず声が震える。 「狩野先生が言ってたんだよ。陽介のヤツ、治療中ずっと上の空だった。何か悩んでいるみたいだ、って」 「……先生が……」  ああ……、と合点がいった。  狩野先生は、今は軍医として活動しているが、元々は俺たちの故郷である町の診療所の医師で、俺たちは生まれた頃から狩野先生の世話になっていた。だから、先生は俺たちのことを何かと気にかけてくれるし、些細な変化にも気づきやすい。  たぶん先生は、俺が皆とは劣るフィジカル面で悩んでいると思ってる。治療を終えた後に見せた表情と言葉は、そう言っていた。  たしかに、それも俺を悩ませるものの一つだ。けど今は……。
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