5人が本棚に入れています
本棚に追加
銃を持つ手に、僅かな意思の乱れが見えた。動揺は手だけでなく他の場所にも現れていた。俺の姿を捉えていた目の奥で、瞳孔が激しく収縮を繰り返し、呼吸の乱れも感じた。
だけど、それはほんの一瞬の出来事で、俺の足元で微かな物音がした次の瞬間には先ほどと同じ獣の姿に戻っていた。
「……ああ。半分は叶ったよ」
記憶に残る声とは違う低い声が返ってきた。この時、俺はなぜか笑いが込み上げて、それを隠せなかった。
死を前にしてこの不可解な態度。奴の背後で待機していた敵は、恐怖で気でも狂ったかとせせら笑っている。しかし、目の前に立つ奴だけは表情を変えない。スッと感情を消した表情で、銃を構えたまま動かない。
「こんな所で会いたくはなかったな」
そんなことを言いながら、奴は銃口を俺の頭に定める。
声色に僅かな感情は見えた。それは、俺が抱く『それ』と同じに思えた。けれども、状況は変わらない。もう俺の知る奴とは違うんだな……。そんな諦めの感情が出てくる。
俺は死を悟り、覚悟を決めた。――その時だ。装着していたインカムに突如通信が入った。
【――目を閉じろっ】
聞き慣れた声の指示に、反射的に身体が動き瞼を固く閉じた。
次の瞬間、俺と奴の間に何か小さな金属の塊が投げ込まれた。
カチリという小さな金属音と同時に響いた炸裂音。そして、瞼越しでも分かるほどの閃光が周囲を満たした。
「――ぐぁぁーっ!」
「くそぉっ!」
見えない世界に、敵の悲鳴が響き渡る。
敵は完全に視界を失い前後不覚に陥っていた。一方、俺は仲間の助けによって、この窮地を抜け出すことができた。
最初のコメントを投稿しよう!