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パステト人にとっては、一つの娯楽が終わるだけに過ぎないだろう。だけど、俺たち地球人にとっては、新たな始まりと同時に、別の苦しみの始まりでもあるんだ。兵士の中にはPTSDに苦しむ者も出るだろう。民間人でも戦争によるトラウマだけでなく、身近な者を失った喪失感や生活の困窮などで苦しむことになる。兵士のPTSDに関しては、パステト人も同様かもしれない。だが、娯楽と戦争という根本にあるものが違いすぎて、必ずしも同質とは限らない。
「ねえ、ヨウくん。これからのことを考えようよ。オレと一緒に……」
「――黙れ‼」
強く噛み締めた奥歯がギリッと音を鳴らす。
ユウのことは好きだ。
だけど、ユウの中にあるパステト人の本質を許すことができない。
俺たちを対等に見ているようで、全く見ていないパステト人を――!
「…………頼む。もう、喋らないでくれ……。俺の……皆の十年を否定しないでくれ……。これ以上、お前のことを嫌いにさせないでくれ……」
「ヨウくん……」
『――――ジーンッ!』
何の気配も感じられなかった暗闇からの声。二人が同時に声の方を向いた瞬間、強い光が当てられた。
『地球人だ!』
聞き取れない声と共に、暗闇で閃光が走った。
「――――⁉」
次の瞬間、脇腹に重い衝撃が襲ってきた。
何が起こったのか理解できないまま、衝撃は間髪入れず襲ってくる。腕、足、腹、肺……。何かが俺の身体を鋭く貫いていく。
それが敵からの銃撃だと理解した時には、もう何もかも遅かった。腹が熱いのに冷たい。肺からの出血で呼吸ができず、血に溺れる。
「ヨウくーんっ‼」
霞む視界に、顔面蒼白で俺の名を叫ぶユウの姿が映る。
ユウに被弾した様子はない。
「…………よかっ……た…………」
自分が死ぬという時なのに、俺はユウが無事なことに安堵していた。
ガクンと足から力が抜ける。
ユウの手を掴もうと伸ばしたはずなのに、その手がどんどん遠ざかっていく。
視界が黒く染まり、ユウ君の顔が見えなくなっていく。そして、声も……。
「…………ユウ……く……ん…………」
俺の額に重い銃弾が撃ち込まれた。
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