幼なじみ

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 衛生環境も良いとは言えず、治療も荒く丁寧とは言えない。しかし、先生の処置とこの治療薬は結構頼りにしている。  詳しいことは知らないし、理解もできていないが、この注射の中身は生物の持つ自然治癒力を活性化させる成分らしい。負傷ヵ所に注入することで、通常よりも早く完治する。実際、俺も何度かこの治療を受けているが、たしかに完治までの期間は短くなったように感じた。  この治療薬の発見は画期的だった。戦時下において、負傷者の増加は戦力低下を意味するのだから。  救世主とも言える治療薬だが、実は人類が発見した物ではない。異星人の拠点に潜入調査した隊が持ち帰ったデータを元に生成されていた。つまり、異星人の技術だ。  構造自体は特定のタンパク質に改良を加えるというワクチンと似たような物で、生成過程で危険な成分の発生や変化などは見られなかったという。  それでも、やはり元データの出所がネックになった。まともに治験を行える状況ではなく、どのような副作用があるのかも分からない。人体への安全性が確証されない状態での使用は、逆に人類にとって致命傷となるえる可能性もあるのだ。そういった理由から、上層部の連中の中には使用に関して難色を示す者が多くいた。  だが、そうも言っていられない状況になった。この治療薬のデータを入手した直後、異星人からの攻撃が激化したのだ。  連日のように負傷者が運ばれるようになり、すぐに治療がままならないほどの逼迫した状態となった。  こんな状況でも上層部は治療薬の使用を渋っていた。そんな煮え切らない上層部に前線が苛立ちを覚える中、一人の研究者が独断で治療薬を使用を開始した。  結果は、今を見てもらえれば分かるだろう。状態は一気に好転し、危機を脱することができたのだ。
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