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「何が言いたいかっていうとね、つまり」
その幼さを残した愛らしい顔に満面の笑顔を浮かべる。
「みんな、ナディアの事が大好きってこと」
ナディアは、たまらず目の前のアリスに抱き着いた。力の限りアリスの細い体を抱きしめれば、ナディアの背にもアリスの腕が回される。同じくらいの背丈の二人は、お互いの頬をすり寄せるように抱擁を交わした。
「アリス……、ありがとう……、ごめんなさい……っ……、私も大好き。愛してるわ、アリス」
本当に、心からアリスが愛おしかった。
「二人って、実はそっちの気があったの?知らなかったなぁ」
ナディアとアリスは涙を拭いながら離れて、声の主を仰ぎ見る。いつの間にか、ノアが二人のそばに立って微笑ましそうな眼差しを向けていた。ブラウンの髪は汗で濡れて額に張り付いているし、白い端正な顔には土もついている。今の彼は、誰が見てもとても公爵子息には見えないかもしれないが、依然としてその爽やかさと気品が失われないのはさすがだ。
「ちょっと、邪魔しないでくれる?せっかくナディアといちゃついてたのに!」
「アリスってば」
「ごめんごめん、でもそろそろ終わりみたいだから呼びに来たんだ」
「あら、そうだったの」
周りを見渡すと確かにみんな片付けを始めていた。確かに日も暮れ始めて薄暗い。
「日が落ちるのも早くなってきたわね」
「そうね、さ、私たちも片付けを手伝わなくちゃ」
「その台とリンゴは僕が運ぶから、二人はそっちのやつを片づけてきて」
ノアはリンゴがたくさん入った重たいカゴを背負い、手に台をもって足早に去っていった。
「ノアさま、すっかり働き者ね」
「確かに……、私たちに指示までして。慣れって恐ろしいわ」
ノアの背中を見送りながら、関心の声を漏らす二人だった。
*
自分たちのもいだぴかぴかのリンゴを手に上機嫌で帰宅したナディアを待っていたのは、リュカだった。出迎えた母に応接室にリュカを待たせているから、と知らされたナディアは、急いで応接室へと向かう。
「お帰りなさい、ナディ」
「お待たせしました」
ふわりとした笑みを浮かべて出迎えたリュカは、駆け寄るナディアの手にあるそれを見て目を丸くした。
「リンゴ、ですか?」
「あっ、そうなんです。今日はリンゴの収穫をみんなで手伝っていて、……リュカさまはリンゴはお好きですか?」
「え、えぇ」
「よかったです! では早速剥いてきますね!」
嬉しそうに弾むナディアの腕をリュカが掴んだ。自分の向かう方とは反対に力がかかり、体勢を崩しそうになったがリュカがそれを受け止める。リュカを背中に感じたのと同時に、シトラスがふわりと舞い降りてきた。それは、ナディアに作ってもらったものよりも、甘さ控えめの香り。
「ナディ」
甘い響きの声と共に耳元に吐息が触れる。ただ、名前を呼ばれただけなのに、心臓が飛び跳ねる。
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