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(久しぶりに会えて、舞い上がってるんだわ) 「リンゴは、後でいただきますね」  手元から奪われたリンゴはテーブルの上に置かれる。くるりと振り向かされたかと思えば、そのままリュカの腕の中に抱きしめられた。 「りゅっ、」 「少しだけ……お願いです」  切なそうなその声に、ナディアは抵抗の手を緩めてそのままリュカの胸に添える。とくとくと規則正しい胸の鼓動は気持ちを落ち着かせてくれる気がする。 「ノアも、一緒だったんですか」  心臓がヒヤリと凍え、足元が竦んだ。一瞬の間にさまざまな出来事がナディアの頭の中を通り過ぎていった。言わなくては、と思いながらもずっと先延ばしにしてきてしまったノアの事。  リュカが孤児院に来たとアリスから聞いた時にも、ノアと鉢合わせしている可能性も考えなかったわけじゃなかった。 「……はい。手伝って貰いました。あのっ」 「――――言わなくて良いです。友だちなんでしょう?」  リュカが今、どんな顔をしているのか、顔を見て話したかったナディアは、両手を押して距離を取ろうとするも、抱きしめるリュカの腕はびくともしない。 「はい……、ノアさまはお友達です。孤児院のことも気にかけて、子どもたちも懐いていて文字を教えて頂いたり孤児院の手伝いもお願いしています……。黙っていて申し訳ありません……」 「謝る必要はありません。以前、孤児院に行った時にアリスから聞いています」  と、そこでようやく腕が緩み、体が離れる。見えたリュカの顔はいつも通りの笑顔だった。 「あの……、リュカさまの恋人役として、他の男性と変な噂が立たないよう今まで以上に気を付けますので……」 (どうか、契約を、終わらせないでください……) 「ノアのことは、今のままで構いませんよ。ただの、友人ですからね? ただの」  ただの、を強調するリュカを不思議に思いながらも、契約を解除されない事にほっと胸をなでおろす。 (良かった……) 「それに、ナディ。あなたは恋人役ではありません。正真正銘、私の恋人です」 (それは……どういう意味……?) 「わかりましたか?」 「は、はい……」  オパールグリーンの瞳は慈愛に満ちている。どこか、悲し気な雰囲気を纏って、揺れているようにも見える。ナディアはリュカの言葉の真意を理解できないまま頷いてしまう。 「――キスをしても?」 「え?」 「先ほどから、ずっと我慢してるんです、実は」  かぁぁぁ、と頬を染め上げるナディア。 (そ、そんなこと聞かれても……!) 「まぁ、嫌と言われても、しますが」 「――ッ」  不敵な笑みを浮かべる、リュカの整った顔が迫り奪われる唇。 「っは、りゅ、リュカさま……、あの、私、砂埃まみれで……んんッ」
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