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悪魔は、絵美里との約束通り、早速マリアを死へと追いやった。
ある休日。友達と夏祭りへ行くとのだと上機嫌で出かけたマリアは、その帰りがけに交通事故に遭い、帰らぬ人となった。
喪服に身を包み、絵美里は現実味を感じないまま、マリアの葬式に出た。
参列した誰もが泣き咽んでいる中、絵美里はひたすらに戸惑っていた。
(なんで……? どうして、私は……それほど嬉しくないの?)
昔から、何度も、この世から姉が消える瞬間を夢見てきた。
マリアさえいなくなれば、幸せに過ごせる。
絵美里の不幸の元凶の全てはマリアだと、信じて疑っていなかった。
それなのに、いざ、願いが実現してみたら。
(こんなにも……あっけないものなの?)
もちろん、悲しむことはないが。
その代わりに、想像の中で何度も思い描いてきた、空へと舞い上がれそうなほどの嬉しさも、喜びも、達成感もない。
現実のマリアの死が絵美里にもたらしたのは、途方もない虚無感だけだった。
✳︎
「人間は本当に愚かだな。私が手を下さずとも、自ら勝手に死んでくれるとは」
マリアが交通事故で死んだ、一か月後。
絵美里は、学校の屋上から、飛び降り自殺をした。
彼女の遺書には、こう書かれていた。
『自分の人生における最大の幸福だと思っていたものが、それほどのものではなかったことに絶望した』
悪魔は、極上の味がする新鮮な魂を前に、舌なめずりをしながら笑う。
「幸も不幸も、何か一つの要因だけで決まるほど単純なものではないということに、今更気がつくなんてね」
【完】
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