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中学に入学した絵美里は、やはりマリアの影響下から逃れられなかった。
女子も男子も皆、絵美里本人ではなく、姉のマリアに興味を持ったからだ。
「絵美里ちゃんのお姉さんって三年生だよね? すっごい美人だよね~!」
「姉妹なのに、ぜんぜん似てないんだ」
「ねえねえ。マリア先輩って、家ではどんな感じなの?」
美しく、文武両道の、表向きには完全無欠な姉。
絵美里には、マリアが自分に与えられるはずだった才覚の全てを吸いとって、絢爛に咲き誇る毒花のように思えてならなかった。
(みんな口を開けば、マリアの話ばかり)
元から寡黙な方だった絵美里が、他人と話すことへ意味を見出せなくなるのも無理はなかった。
絵美里は、中学で、美術部に所属した。
部活動自体は週に二回だったけれども、絵美里は、開放されていた美術室へ熱心に通いつめた。
第一に、あの居心地の悪い家に帰宅するのを、できる限り遅くしたかったから。
そして、絵筆を握り真剣にキャンバスに向かっている間だけは、気が滅入るようなこと――姉への憎しみから逃れられるから。
ゴールデンウィークが明けた頃、そんな絵美里に話しかける人物が現れた。
「本条って、真剣に絵を描くよなぁ」
「…………」
「えっ、ちょっと待って。流石に無視は傷つくんだけど」
「……もしかして、私に話しかけているの?」
「そーだよ。いま美術室にいるの、俺とお前だけじゃん」
美術部員の白井凪人だ。
一応、絵美里とクラスメイトでもあるのだが、会話をするのは初めてだった。
白井は、教室の隅の方を好む、大人しい雰囲気の男子だ。
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