命懸けの復讐の先は

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(どうせこの人も、お姉ちゃん目当てなんだろうな)  絵美里は仏頂面のまま、キャンバスから視線もそらさずに答えた。 「姉に興味があるのなら、私に関わろうとしないで」 「姉?」  白井は何度か瞬きをして、首を横にかしげた。 「へえ。本条って、姉がいるんだ? 知らなかったな」  絵美里は、動揺した。  白井が、マリアと自分との繋がりを知らなかったことに。  そうでありながら、絵美里に話しかけてきたという事実に。   (……変な人)  戸惑っている絵美里にかまわず、白井は話を続けてきた。 「本条は、風景画が好きなんだな。人の絵は描かないの?」 「……人間は、あまり得意じゃない」 「それは、絵の話?」 「……絵も、実物も」   絵美里のそっけない回答に、白井は瞳をぱちくりとさせながら、小さく噴きだした。 「実物もって! 言い方、ウケるな」 「……そう?」 「うん。面白いよ」  その日を境に、白井は、絵美里に話しかけてくるようになった。   部活動の日ではなく、美術室で二人きりになった時に限り、視線は互いにキャンバスへ向けたままで。 「本条って、大人びてるよな」 「……」 「クラスの女子の大半は、推しとか恋バナとか、そんな話ばっかだけど。本条は、人生二周目って感じがする」  絵美里には、これといった趣味もなければ、好きな異性もいない。  絵を描くのだって、気が紛らわすためにしているだけで、純粋に好きなのかと問われれば分からなくなる。  良くも悪くも、絵美里の心は、マリアという影に囚われているのだ。 「……ベツに。単に黙っているから、そう見えるだけじゃないの」 「まー、それはあるかもな。でも、沈黙は金っていうし、黙ってられるのも賢さなんじゃね?」 「白井は、面白いこと言うね」  最初は、白井に対して警戒心しか抱いていなかった絵美里も、雨の日が続く六月に入る頃には心を開きつつあった。  白井が絵美里に話しかけてきたのは、恐らく暇つぶしだったのだろう。他人に興味を持たず、熱心に描き続ける絵美里の存在を、奇特だと思ったのかもしれない。  きっかけはなんであれ、絵美里にとって白井は、初めて自分自身に興味を持ってくれる他人だった。
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