六話 ※ムナクソ、流血

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六話 ※ムナクソ、流血

「げへへ、お嬢様もお優しいなぁ」 「まぁ火傷の痕は気持ち悪いけど、まぁ──いけるな」 「んだ、贅沢言ってっと罰があたるってもんだ。できさえすりゃなんでもいいべ」  ゲヘは他の仲間も呼び、三人で少年を辱めようとしていた。実は好きに指導していいと言われていたが、性的なものだけはなんであっても禁止されていた。少年を紹介されたとき、執事が言っていた「ただ──」に続く言葉がそれだった。理由は伯爵家の品位に関わるということだった。ゲヘは不満に思いながらもその言葉に素直に従っていたわけだが、それが今日になってレント伯爵のひとり娘であるジェニファーから少年に性的に(そういう)乱暴をするように命令されたのだ。こんなことになるなら少しは手加減してやったのに、と自分勝手なことを思いゲヘは笑った。  ゲヘが声をかけた二人は下男ではないが、生まれはいいのに柄が悪く、微妙な立場の男たちだった。だが確実に下男であるゲヘよりは上の立場であり、逆らうことは許されなかった。少年の面倒を長年みてきたのはゲヘ(自分)であり、本当は独り占めしたかったが、あとでそれが知られるとまずいことになる為、仕方なく二人にも声をかけたのだ。せめて自分が一番最初に、とも思ったが同じ理由でそんな考えは早々に諦めた。無駄に争うよりは何番目でもできればいいと思うことにした。下手をすると見学だけで終わることもあり得るからだ。  ムチで打たれ傷だらけでぐったりと項垂れる少年に対してゲヘたちは既に発情していた。先に述べた品位の関係で、下男といえど貴族に仕える者として女を買うことも許されていなかった為、欲求不満だったのだ。それがなくても金銭的余裕はゲヘたちにはなかった為、結局は禁止されなくても同じことだったわけだが。  それに顔に火傷以外の痕がない今、最近取り戻した少年の美しさに惹かれていたのはなにもルイスだけではなかった。ゲヘたちはゴクリと生唾を飲み込むと、荒い息をさせ手足を縛られて身動きのとれない少年の元へとジリジリと少しずつ近づいていった。こうすることで少年の恐怖心を煽り、自分たちの欲望さえも昂めようとしていた。ズボンの前を寛げ取り出した、既に大きく育ち勃ち上がったモノを片手で扱く。 「おい、これからオレらが可愛がってやるからな」 「なぁにいてぇことはしねぇよ。な?」 「あぁ、気持ちいいことだけだ。ふへへ」  少年は愛玩奴隷としての実地教育には失敗してはいるものの知識はあった。だからゲヘたちがこれから自分にしようとしていることがなんなのか分かっていた。殴られても蹴られても、暴言を吐かれても青年のことを思えば笑っていられたが、これだけは無理だった。自分を内側から引き裂き、粉々に砕き踏み躙った上で殺す行為だ。なにを許せてもそれだけは許せるはずがなかった。  少年は考える。なんでこんなことになってしまったのだろうか。両親が亡くなった時なぜ自分だけが残されたのか、なぜ一緒に死ねなかったのか。親切そうに近づいてきた親戚に騙され売られ、そして今──。  少年は縛られた足で思いっきりゲヘに蹴りを入れようとして軽く躱されてしまう。 「おい。大人しくしないなら痛い目みるぞ」  ドスのきいた声に恐怖なんかないが、満足に抵抗もできない自分が情けなくて俯き、涙が零れた。それを諦めと見たのかゲヘたちは大きくいかつい手で少年の頭を乱暴に撫でた。 「そうだ。大人しくしてれば後で美味しいもんでも食べさせてやるからな」  ぎゅっと目を瞑り、舌を噛んで自ら命を断とうとした。さすがにその後穢されることはないだろうと思ってのことだ。だがすぐに、いやこの男たちなら……と舌を噛むことを躊躇っていると、遠くで物が壊れる音と人々の泣き叫ぶ声と怒号が聞こえてきて、剣と剣が交わる音が大きく響いていた。 「なんだ……?」 「今日はなんかあったべか? お前ぇ見てこい」 「え、なんでオレが?」  一番年嵩の男がゲヘを睨むと、観念したように「分かったよ。見てくるけど先に俺抜きでおっぱじめんなよ? 絶対だぞ?」 「はいはい。分かってるって、大人しく待っててやるよ」 「んだんだ。早ぐいけ」  短く息を吐いて、渋々といった様子でゲヘがひとり部屋から出ていった。 「さぁて、お楽しみといくか。あん? 待たないのかって? こんなご馳走前にしてお預けとかねぇよ。まぁ文句は言われるだろうけど、あいつにもさせてやれば問題ないだろ」 「んだべ」  残った男たちが少年に手を伸ばしたところで、「ぐぇっ!」「な、なんだお前らっ!? ぎゃーっ!」という男の声をふたつ(・・・)聞いた。その後ドサドサと少年の上に男たちが倒れてきた。ふたり分の重みに顔を歪めると、男たちがさっきまで立っていた場所には血塗れの剣を持つ──赤に染まった青年の姿があった。  少年は数度瞬きをし、視線を彷徨わせるようにして青年に怪我がないことを確認すると嬉しそうに微笑んだ。そうして、これが夢だとしてもなんて幸せなのだろうと思いながら意識を手放した──。 第一章・完
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