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二話 ①
ゆっくりと意識が覚醒していく。どうやら僕は眠っていたようだ。だけどベッドに入った記憶はないんだけどな……。ソファーでうたた寝してしまってノイア様がベッドに運んでくださったんだろうか。だとしたら申し訳ないな。
まだ完全に覚醒しきらないぽやぽやの頭を軽く振り、両手で目を擦った。するとすぐにその手を止められた。
「擦ってはいけないよ」
────え? ノイア様であるはずの声が違って聞こえ焦る。ズイ様でもなく──。目をしっかりと開けて、声の主を見て固まった。
「どうしたの? 僕だよ。ルイスだよ。忘れちゃったの? つれないなぁ。愛しいきみとやっと一緒にいられるんだ。もっと喜んでくれないと。きみだって僕のことを恋しく思ってくれていたんだろう? ここには誰もきみを怒る人なんていないんだから素直に喜んでくれていいんだよ」
そう言ってルイス様は僕を抱きしめた。少しの身じろぎも許さないとばかりにギュッと。強く抱きしめられて痛いとかではなく、なんだか背筋がゾワゾワとして気持ちが悪い。好意を向けられていると思うのに、どろりとした嫌なものが全身に纏わりつくようで──本当に気持ち悪い。
なんでこんなことに? そういえば僕は本当にうたた寝をしてベッドに──? ──違う。僕がいた部屋のドアがノックされて、それで現れたのはルイス様で──。えっとそれからどうなったんだっけ……?
抱きしめられたままもぞりと動き、なんとか目だけで辺りの様子を伺ってみた。
目が覚めたときから違和感はあったけれど、どうやらここはノイア様のお屋敷じゃないみたい。ノイア様のお屋敷はすべてのインテリアが統一されていたけど、ここはぜんぜん違う。インテリアも気配も匂いさえもなにもかも。
「…………!」
パクパクと必死で口を動かしたが声が出るわけではないので、僕の言いたいことはルイス様には伝わらなかった。
「よかった。きみが素直だと僕も嬉しいよ」
僕がルイス様と一緒にいられて嬉しいって言ってるみたいに思われたみたいだ。そんなこと少しも思っていないのに、笑顔でそんなことを言うルイス様が僕は怖かった。以前お嬢様が僕をお怒りになったのはルイス様が関係しているのは知っていた。だからといって文句を言うつもりはないけれど、こんな風に僕の気持ちを勝手に決めつけて必要以上に身体に触れられると困ってしまう。
ふとノイア様の笑顔が頭に浮かんだ。ノイア様に助けてって言ったら助けてくださるだろうか……。それとも僕をルイス様の元へやったのはノイア様? あのお屋敷は領主様のお屋敷、警備だって厳重なはず。ならノイア様もご存じだってこと? だとしたら僕はルイス様の元にいるべきなんだろうか……。それに僕だってノイア様の元から去るつもりだったわけだし……予定とは違うけれどそれがノイア様の幸せに繋がるなら──。
僕はルイス様の腕の中で、諦めたみたいに力を抜いた。
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