三話 ①

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三話 ①

「ペルレ、僕の気持ちはもう分かっているね。だからどうか僕のものになってはくれないか?」  従順でいるようで、のらりくらりと躱している僕にとうとう痺れを切らしたんだと思った。無理強いするつもりはないとおっしゃったけれど僕は声が出せないし、自分勝手に解釈してしまわれるのにこうやってお訊きになるということは、ぜんぶ分かっていてやっているということだ。僕に分からせる(・・・・・)為に。これがノイア様だったら絶対にそんなことはなさらないのに……。  僕はノイア様に捨てられたかもしれないというのにまだノイア様のことを想ってしまっていた。多分なにをされてもきっとこの気持ちは変わらない。 「──ペルレ、答えをくれないか?」  両肩をがっしりと掴まれ逃げることもできない。答えをと言いながら、その答えは最初から決まっていて、ルイス様の望む答え以外は許さないとでもいうような圧まで感じる。 「きみも僕を愛してくれているはず(・・)だろう? ないとは思うがもしも違うと言うなら……、僕はきみが酷い目にあうのを止めさせたことがあったね。あのことを少しでも感謝してくれているのなら態度で示して欲しいと思ってしまうのは僕の我儘かい? 僕は本当にきみを愛しているんだよ」  ルイス様の僕を見つめる目は据わり、告白をしているというのに甘さなんてどこにもない、その目は怒りと欲に濡れていた。こんなのただの脅しだって思う僕は恩知らずの酷い人間なんだろうか。だけどどうしても恐ろしいと感じてしまうんだ。今すぐここを逃げ出したいけれど、それは無理だってことは分かってる。だから僕はゲヘたちに襲われそうになったときにもやろうとしたことを今度こそやろうと思う。僕は微笑み、ルイス様に見えるように舌を出して、自分の歯で噛み切ろうとした。  ──だが、できなかった。それは、──声が聞こえたから。ずっと求めていた声が。 「……トっ!」  僕を呼ぶ── 「──ヒトっ!!」  ノイア様の声が! 「…………っ!」  ここにいることを伝えたくて叫ぼうとするけれど、口がぱくぱくと動いても空気が漏れるみたいな音だけがする。何度も何度もぱくぱくと唇だけでノイア様の名を呼ぶ。時間にしてそんなに経ってはいなかったのかもしれないけれど、僕には永遠にも感じられた。そうこうしているうちに呆然としていたルイス様が我に返って、僕の腕を掴んで逃げようとした。いやっ! いやだっ!! ノイア様っ!! 「──ぁさ、まっ!!」  何年振りになるのか、久しぶりの僕の声は小さな小さな音でしかなかった。
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