二話 ②

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二話 ②

 それから数日が過ぎても未だ青年は目を覚まさなかった。少年は不安に思いながらも毎日夜中にこっそり井戸で汲んだ水で青年の身体を拭き清め、甲斐甲斐しく世話を続けた。少しでも環境をよくしようと藁を馬小屋から気づかれない程度を持ち帰った。おかげで今ではふかふかの藁の寝床になっていて、その上に眠る青年も心なしか気持ちよさそうである。そんな青年の様子に少年は笑みを漏らす。だがすぐに眉尻をへにょりと下げた。青年の腹部の傷に塗られたすり潰した薬草の強烈な青臭さと、元々あった色々な匂いが混ざり合ってひどい匂いになっていた。その為、意識がないはずの青年が時々思い出したように鼻をひくつかせ眉間に皺を寄せたりしているのを見ると申し訳ない気持ちになるのだ。少年にとっても悪臭には違いなかったが、鼻が慣れてしまったのかそれほどは気にならなくなっていた。だが青年にとっては意識がなくても不快に感じるほどひどいものなのだろう。分かってはいても少年にはどうすることもできなくて、せめてもと青年の顔の傍でフーフーと悪臭を吹き飛ばそうとしたりもした。そのくらい少年にやれることなんて限られていて、その中で精一杯のことをしているのだ。そして薬草を使わないという選択肢は少年の中にはなかった。代わりになる物がないのだから当然だろう。  本来少年のような身分の者に薬草の知識なんてものはない。ただ少年には昔愛玩奴隷として受けた教育の中に薬草についてのものがあった。そしてたまたま近くの森に傷を治すのに使える薬草があるのを知っていた。夜の森は怖かったし、薬草を見たのが随分と前のことで場所もうろ覚えだったが、少年は構わず夜の森へと踏み入った。自分の為ではなく青年の為だったからこそできたことだった。  森は少年の小屋からそう離れていない、倒れていた青年を見つけた森だ。浅い場所であれば特に怖い魔物や狼や熊などの脅威となるものもいないが、動けるのが真夜中だけに限られる為、森の様子も変わってくる。物音や気配に充分気をつけながら薬草を探した。見つけるのに苦労したがなんとか見つけた薬草を持ち帰り、すり潰して青年の腹部の傷口に塗った。そしてすり潰した薬草を傷口に塗るだけでなく絞り、薬草汁にして熱を下げる為に飲ませた。学んだといっても教育が多岐に渡りすぎてひとつひとつは浅く、医学については民間療法程度のものだった。この薬草をすり潰した汁を飲ませると熱冷ましにもなると聞いた覚えがあった、という程度のものだったが試さずにはいられなかった。  水のときと同様、口移しで飲ませる為にまずは少年が薬草汁を口に含んで、思わず渋面を作る。そのあまりの不味さに青年が大人しく飲んでくれるか不安になった。それでも高熱が続くのはよくない、と無理矢理流し込んだ。予想通り青年は眉間にギュッと皺を寄せむずかるような様子を見せたが、少年が青年の頭をぎこちなくも撫でると大人しく飲んでくれた。そして、意識はないはずなのに薬草汁のひどい味を誤魔化す為の甘味でも求めるように、少年の舌に自分の舌を絡ませてきた。驚いて逃げようとしても、少年の腰は青年の立派な腕でしっかりホールドされていて逃げることも叶わず、されるがままに青年の肉厚な舌が少年の口の中を蹂躙していく。不思議なことに少年の方も段々口の中が甘くなっていく気がして、口の端から垂れる唾液をも舐め取り、自らも甘み(・・)を求めて舌を伸ばした。  やがて口の中の嫌な感じがなくなり、やっと解放されたときには少年は真っ赤な顔ではぁはぁと荒い息を繰り返していた。──そんなことがもう何度目になるのか、それをされるとうまく息ができなくなってしまう。それにへその下辺りに熱が溜まり、なんだかソワソワとして落ち着かないのだ。こんなことは初めてで少年は困ってしまった。だがそれでもそれを()めたいほど嫌なわけでもなく、困りながらも続けることにした。
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