606人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
◆◆◆◆
「ずいぶん背が伸びたな。俺よりでかいんじゃないか?」
10年ぶりに会った徳行は、さわやかな笑顔はそのままに、男らしく大人っぽく、定規でまっすぐに引いたように“正しく”成長していた。
「大学も忙しいのかもしれないけど、たまには帰ってあげないと親不孝よ」
数年ぶりに会う姉もまた、美しく色っぽく変貌を遂げていた。
サプライズのためにこちらの気配を伺っている店のスタッフたちが、二人を見ながら囁き合っているのがわかる。
無理もない。
どこからどう見てもお似合いのカップルだ。
「姉さんは今も実家に?」
亜樹の発したこの言葉をきっかけに、二人はこれ見よがしに目くばせをすると、
「実は今、徳くんのマンションに一緒に住んでて、近々もっと広いところに引っ越そうと計画してるの」
鞠愛の大きな目が亜樹を見つめた。
「結婚するの。私たち」
――だから、邪魔しないでね。
亜樹には確かにその声が聞こえた。
「……それはそれは、おめでとうございます」
亜樹は他意なく微笑んでいる徳行と、こちらを射るような視線で睨んでいる鞠愛を交互に見つめた。
「幼いころから知っていた徳行さんに姉さんを任せられるのであれば、弟としてこれほど心強いことはありません。両親もさぞ喜んだでしょう」
亜樹が言うと、
「お父さんとお母さんにはこれから言うの」
鞠愛は強調するような口調でゆっくりと言った。
「まずは亜樹にって思って」
カッと首筋が熱くなり、亜樹は俯いた。
体中の血液が燃えながら頭に上ってくる。
――なんだそれ。
なんだよそれ……!
この女――どこまで僕を馬鹿にしたら気が済むんだ……!!
「……」
亜樹は上がり切った血液を一気に降下させるように勢いよく顔を上げた。
「めちゃくちゃ嬉しいんですけど。最高の知らせを、一番に僕にしていただいて、ありがとうございます」
その笑顔に徳行がホッとしたように笑い、
「亜樹……」
鞠愛が潤んだ眼で亜樹と徳行の間に視線を移動させる。
――許さない。絶対に。
「失礼します」
タイミングを見ていたウエイターが、遅れてきた亜樹のグラスにもコーラを注ぐ。
「…………」
亜樹はウエイターがグラスに注ぐ、少し赤味のあるコーラを黙って見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!