踏んじゃった

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「あっ! そういえばさ、姉貴知ってるか?」  弟がまるで世紀の大発見でもしたかのように大声を上げた。経験上、私にはわかる。こういう時の弟は……くだらないことしか言わない。いや、まぁ普段からくだらないことしか言わないのだけれど。面倒だから無視しておこうかとも思ったが「なぁ、姉貴ってば」と重ねて言われ仕方なく「何よ」と返事した。 「ネコ踏んじゃったって歌あるじゃん?」  ああ、やっぱりしょうもないことだ。二つ年下の弟は今年二十八歳になるのだが未だに定職にもつかずたまにアルバイトをしながら生活している。もちろん独身だ。まぁ、だからこそ気軽に仕事を依頼することもできるので重宝してはいるのだが。 「ああ、あるね。それが何よ。あ、ちゃんと手動かしてよ。高い時給払ってんだから」  今日も業者の手配ができず弟に作業を手伝わせていた。 「おぅよ。でさ、あの歌の歌詞知ってるか?」 「猫踏んじゃった♪ ってやつでしょ」 「うん、そう。あれさ……むかつかねぇ?」  弟は大の猫好きだ。 「あー、まぁね。私も嫌いだよ。猫かわいそうだもん」 「だろ? 2番の歌詞なんかさ、ネコが蹴っ飛ばされて空まで飛んでっちまうんだぜ?」  弟は眉間に皺を寄せ憤慨している。 「え、そうなんだ。2番の歌詞までは知らないなぁ」 「だいたいさ、ネコ踏むなっての。しかも踏んどいて楽しそうに歌ってんじゃねぇって話だろ? これだから俺は人間ってのが……」 「はいはい、それより早く作業してよ。日が落ちるじゃん」  今、私たちは二人で山奥にいる。の処理だ。穴を掘って埋めたらお終いの簡単なお仕事。ま、違法なんだけど。 「あー、わかったよ」 「あとさ」 「何だよ、姉貴」 「あんたこそ踏んでるよ、それ」  顎で足元を指すと弟は「いいじゃん別に」と笑う。 「よくないよ、そんなもん発見されたらえらいことなんだからさ。ちゃんと埋めといてよね」 「はいはい、と」  弟は踏みつけていた死体の手から足をどかすと、実に不謹慎な替え歌を歌いながら楽しそうにスコップを地面につきたてた。 ――ヒト死んじゃった♪ ヒト死んじゃった♪ ヒト死んじゃったから埋めちゃった♪ 了
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