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執行委員長の私には同じキャンパスにある別学校、サキベツ定時制高校の生徒会の書類にハンを押す仕事がある。鴫原君が貴重品箱の鍵を開けながら、笑ってくれた。
「うちの生徒活動って、おかしな決まりが多いよね。あ、通帳の記帳するからテーブル借りるよ?」
「どうぞ。咲高も定時制も戦前は同じ私学校だから。戦後に分校した時に面倒な委員会則がなくなっていたら、きょうの仕事も半分ですんだのにね」
サキベツ定時制高校は来春に閉校するので、三年生しかいない。このハン押しを不思議と思いつつ続けるのは、他校の生徒活動に反対する理由も今さら規則を変える必要もないからだ。
顧問のヒゲ先生の言葉が浮かぶ。
「華見、民主主義とは平たく言えば手続きだぞ。手続きを怠ってはいかん」
ソファで電卓をたたきはじめた鴫原君を横目に、私は再びこみあげた眠気をこらえ、さっと目を走らせながら承認印をインクに押しつけた。
■第十五号議案 第百六代生徒会長の転学に伴う退任手続きについて
承認、次。
■第十六号議案 第百七代生徒会長の選任 三年 夜叉神華穂
最後の会長さんになるわけか。
定時制で私と同じ女性会長なのも時代ね。ご苦労さまです。承認、次。
■第十七号議案 生徒会室の蛍光灯及び備品の購入について
承認、次。
■第十八号議案 第十八回咲別高校代議員会議案の採択について
承認、次……。 と、ハンを押そうとして手がとまった。
【咲別高校後期活動予算案の採択結果 全会一致で否決】
……否決?
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