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☀ 昼 一 幕 ☀
浅い午睡から覚めた私の目に映ったのは、見なれた執行委員長室の古びた窓だった。
夢を見ていた気がする。水彩で塗ったような優しい色の夢。
右手が胸の金色のペンダントをにぎっている。体をイスの背に深くもたせて、そのまま眠ってしまったらしい。軽く背伸びをして、ただよう意識を現実につなぎとめる。
三階の窓の外に広がるのは、穂先の金緑がなびく早稲の田。
その奥にそびえる暑寒の山は、どの季節に見ても稜線と山肌の色合いが美しい。今は蒼穹の下で薄い噴煙をなびかせながら、頂を時節の早い紅葉色に染めていた。
私の大好きな夏が、もうすぐ終わる。
北国の短い夏休みが明けて、市立咲別高校は八月二十一日に授業が再開した。
全校生徒三千人の巨大高校の生徒会、通称「咲別高校執行委員会」。その第百十二代執行委員長である私・華見凛は、夏休みの間、十月からはじまる後期生徒活動予算案のとりまとめに走りまわった。
それも先週、代議員会で承認されて一段落。穏やかな日和の午後だった。
その時、コンコンと遠慮がちにドアをたたく音が聞こえた。
とっさに上体を起こして、ロッカーの鏡に姿を映す。目元とリップと軽いウェーブをかけた栗色の髪、えり元の赤いタイをチェックしてから「どうぞ」と答えた。
「華見委員長。目、覚めた?」
扉を開いたのは執行委員会の会計担当、同じ三年の鴫原千尋君だ。
「用件は、決裁?」
「うん。先月の決算と定時制ポストの議案。疲れていたみたいだからドアの外で待ってた」
「よけいなところまで気をまわさなくていいのに」
笑顔をつくると、鴫原君は少年のような顔を少し赤くしてから、私に書類を渡した。
【サキベツ定時制高校生徒会・第六回定例会審議結果】
そっと、ため息をつく。
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