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「今宵は……満月ね」  少女は表情を変えることなく夜空を見上げ、氷のように冷たい口調で言った。  生憎、月を見て風流を楽しむという感性は持ち合わせていない。そんなものは最初から自身には存在しないと(かたく)なに言い聞かせている。 「……やっぱこの季節の夜は肌寒い。さっさと帰ろうかな」  首に巻いたマフラーに手を触れて足早に歩こうとすると、突然どこからか何かを擦るような音が聞こえて来た。 「一体何の音?」  不快そうな口調で呟いていると、少女の上方向から音が聞こえ、徐々に大きくなって来た。  恐る恐る夜空を見上げて見ると、奇妙なことにそこには”方舟”が浮かんでいた。    
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