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Ⅰ
「今宵は……満月ね」
少女は表情を変えることなく夜空を見上げ、氷のように冷たい口調で言った。
生憎、月を見て風流を楽しむという感性は持ち合わせていない。そんなものは最初から自身には存在しないと頑なに言い聞かせている。
「……やっぱこの季節の夜は肌寒い。さっさと帰ろうかな」
首に巻いたマフラーに手を触れて足早に歩こうとすると、突然どこからか何かを擦るような音が聞こえて来た。
「一体何の音?」
不快そうな口調で呟いていると、少女の上方向から音が聞こえ、徐々に大きくなって来た。
恐る恐る夜空を見上げて見ると、奇妙なことにそこには”方舟”が浮かんでいた。
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