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「えっ、なんで舟が空を?」  夢ではないかと疑いたくなるが、そう考えが(よぎ)っている時点でこれが紛れも無い現実であることを思い知らされた。   方舟はゆっくりと下降し、少女の前に降り立った。  近くで見ると、方舟は全て瑪瑙(めのう)で造られており、何とも不思議な外観をしていた。  何だか不気味に思い、恐る恐る離れようとする少女を呼び止める女性の声が聞こえた。  方舟から姿を現したのは、少女と瓜二つの容貌、更には身に着けている衣服まで寸分違わず同じの少女(ドッペルゲンガー)であった。 「えっ、何で私がいるの?」  少女は戸惑い、おろおろするばかりであった。そんな様を見て少女(ドッペルゲンガー)は駄々をこねる子供を見るように笑った。 「アハハ、ビックリしている。我ながら傑作だねぇ」 「ば、馬鹿にしているの?」  少女は眉をめ(しかめ)め、不機嫌そうに言った。 「そんなつもりはあんまり無いよ。なぁに、まさか自分となもう一人の自分を見かけたもので興奮しているんだよ。いやぁ、今日は満月の日だから久し振りにと戻ってみるものだねぇ」  どこか胡散臭さを拭えない口振りだが、そんなことを詮索させる隙も与えまいと少女(ドッペルゲンガー)は方舟から飛び降り、少女の目の前に立った。 「キミ、名前は?」 「あ、アゲィト」 「へえ、奇遇だねぇ。私もアゲィトって言うんだよ。もしかしたら天文学的な運命の導きかもしれないねぇ」  向こうは嬉々とした様子で半ば自己陶酔に陥っているが、不思議なことにこちらは微塵も嬉しさや驚きを感じなかった。 「それで、アンタは何しに来たの?」 「そう睨みつけないでほしいなぁ。別にキミをどうこうする気は無い。こうして出会ったのも偶然ながら強い縁の賜物。そうだっ。キミも是非私の方舟に乗りたまえ。時間はたっぷりあるからさぁ」  少女の意思も聞かずに半ば強引に自分の方舟へと引き込んだ。方舟はゆっくりと浮上し、そのまま夜空の彼方へと消えてしまった。
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