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Ⅱ
※ 以降、少女はアゲィト、少女を少女と表現する。
方舟は上昇を続け、あっという間に宇宙空間へと出た。
宇宙空間から見た地球の全体像というのは様々な媒体で見る機会があるが、生で見るのは初めてだ。確かに生で見ればそれなりに感動するが、ずっと見ていればそれほど感情を揺さぶられることも無くなってしまう。
隣に座る少女も然り、地球など目もくれず、ただ目指す場所を淡々と眺めているだけであった。
「ところで、アンタはどこへ向かっているの?」
「おや、気になるかい?」
「いや、別に」
「冷たいなぁ。まあキミが興味が無くとも喋っちゃうんだけどね」
誰も持っていない珍品を見せびらかすように、少女は自慢げに話し出した。
「この方舟の目指す場所――それは月。そこは私にとって夢の宝庫ってわけだよ」
「夢の宝庫?地球には無い金銀財宝が山のように眠っているの?」
「うーん、物質主義的な考え方だねぇ。まあでも間違いじゃないから仕方ないんだけどねぇ」
「回りくどいね」
「アハハ、お褒めの言葉、どうもありがとう。どうせそれが何なのか質問されるだろうから先に答えちゃうけど、簡単に言ってしまえば”月の宝石”さ」
「月の宝石?もしかして昔アポロが持ち帰った月の石のこと?」
「アッハハハハハ、面白い冗談だねぇ」
少女は心底可笑しかったようで、爆笑した。アゲィトは不満げにしかめっ面で少女を睨みつけた。
「あーごめんごめん。あんな石ころを宝だって言うもんだから、やっぱり地球人なんだなって懐かしく思えてねぇ。アハハ、私が言う月の宝石っていうのは、永遠の命を与える鉱石のこと。宇宙広しと言えども、月でしか産出が確認されていない希少なものなのよ」
それを聞いたアゲィトは今までの不愉快な気分など霧が一瞬にして晴れるように忘れてしまった。
永遠の命イコール不老不死となれば、地球人類史を辿れば永きに亘って追求されてきた夢である。古今東西のあらゆる権力者が躍起になって尚、得られなかった代物ともなれば、歴史がひっくり返るような大事件となるだろう。
尤も、少女はそんなことに興味は全く無かった。
「森羅万象欲する者は際限が無い。だからいくらでも高値での取引が成立する。こっちとしてはぼろ儲けな最高の商売道具さ」
「そ、それは地球でも取引が行われているのですか?」
先程までとは打って変わって、アゲィトは鬼気迫る様子で質問をした。
「残念ながら、地球人は先程のキミのように月の石みたいに珍しい物程度の価値しか見出せないよ。尤も、仮に価値を理解出来たとしても、奴らだけにはいくら大金を積まれても取引する気は無いんだけどね」
「ど、どうしてですか?永遠の命になれば幸せになる人がいっぱい増えるんじゃないですか?そうすれば戦争も無くなりすぐに世界が平和になるのに」
「アッハハハ、夢見る少女は良いねぇ。そんな純粋な妄想はどす黒い深淵を生むんだよ。おっと、見たまえ」
少女が指差す先には神秘的な白い輝きを放つ天球――月があった。
方舟はそのまま月へと接近し、ゆっくりと月の大地に降り立った。
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