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月の大地というのは思った以上に寒々としていて、何より殺風景であった。
一言で言えば穴ぼこと果てし無い不毛な荒野が続ており、点在するように月桂の木が生えているだけであった。
少女はスコップを片手に方舟から降り、足元の悪い月の大地を進んだ。アゲィトはその後ろをついて行った。
かなりの時間歩き続けているが、不思議と疲れは感じなかった。道中色々と話をしようとしたが、この時の少女はどこか殺気立っていて声を掛けることが出来ず、終始無言でひたすら歩き続けるしかなかった。
「やっと到着。さあ、採掘開始だよ」
そこは小高い丘になっており、その頂にはポツンと月桂の木が一本立っているだけであった。
少女は月桂の木の近くをスコップで掘った。
アゲィトはそれを眺めていたが、それはただ退屈なだけで途中あくびが出そうな場面もあった。
「退屈ならそうだって言ってもいいんだよ?」
不意に声を掛けられたアゲィトはビクッと身体を震わせた。
「い、いや、別に私はそんな……」
「気にならないかい?月には人間は存在しないのかとか、どうやってこれの存在を知ったのかとか」
「素直に教えてくれるの?」
「……私が教えなくとも、いずれ分かるよ」
「何それ?」
回りくどさを極める、と言ったところか。真意はどうであれ、結局教える気は無いのだから無駄な詮索は止めようとアゲィトは考えた。
そんなアゲィトを他所に少女は採掘の手を止めて掘った穴から何かを取り出した。
「ほら見て。これが”月の宝石”だよ」
少女の手には透き通った水晶のような宝玉が握られていた。
「それが”月の宝石”ですか。それで、それをどうすれば永遠の命を得られるの?」
「服用するんですよ。粉末にするとかしてね。でも、これを粉末にするだけでも相当に高度な技術が必要になるんだよねぇ。だからこれの価値を知らなければ豚に真珠も同然ってわけ。さあ、方舟に戻りましょうか」
「もっと掘らないの?」
「これだけあれば十分よ。乱掘は豚以下の貪欲愚者の芸当よ」
少女の指示に従い、大人しく方舟へと戻った。
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