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方舟へと戻った少女は単眼ルーペを装着して隅々まで宝玉の塵を払い、状態を確認した。
アゲィトは少女の作業の邪魔にならないよう、背後に椅子を置いて静かに控えていた。
終始沈黙を貫こうとしたが、少女がそれを許さなかった。
「おお、これは上質な宝玉だよ。これは記録更新の可能性も出てきたねぇ」
「……一体どこと取引をしているんですか?」
「うーん、色々あって一言では言えないわねぇ。ざっくり言えば、ここよりも遥か遠い星のどこか、かな」
「そこは、地球よりも文明が進んでいるんですか?」
「当然。じゃなけりゃあ、一国の政治経済を引っ掻き回すくらいの財を擲ってまでこれを欲する筈が無いよ」
「逆に、それがあることで文明が進歩するってことはないのですか?」
すると少女は作業の手を止めた。
「進歩するよ。間違いなく。でも、その為にはこれの真価、言い換えれば神髄を知り尽くさないとそれは無理だね。少なくとも地球人のあの有様じゃあ遠く及ばないね」
少女は再び作業の手を動かした。
「ところで、ずっと気になっていたけど、アンタって一体何者なの?私と瓜二つで姿形までもそっくり。まるでドッペルゲンガーみたいだけど、私と何か関係があるの?」
核心に迫る質問に窮したのか、暫くの間沈黙した。
「どうしたの?答えられないの?」
「……アハハ、キミはどういう答えを望んでいるのかな?」
「私の質問に答えて頂戴!」
アゲィトの声には怒気を含んでいた。
「やれやれ、キミのそういうところを見ていると本っ当に嫌になるねぇ。何かこう、見たくない自分を見ている感じがして」
少女はおもむろに椅子から立ち上がり、作業棚の方へと向かって引き出しを開け、小さな箱を取り出すと月の宝石をその中に収めた。
「つくづくアンタは回りくどいってことが分かったわ。どうせ意味深な言い回しをしてごまかすつもりでしょう?だったらもういいわ。さっさと地球へ帰還しましょう」
「……その方が良さそうだねぇ。特にキミにとっては、ね」
すぐさま方舟は月を離れ、地球に向けて出発した。
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