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月が沈み、空は白み始めた。
しかし、彼女には夜明けは決して訪れない。そもそも最初から存在ったからだ。
「あーあ、もうこんな時間なんだ。そろそろ出発しなきゃねぇ」
小窓から空を眺めていた彼女は方舟の奥にある部屋の中へと入った。
そこでロッキングチェアに座ってくつろぎながら”月の宝石”を手に弄ぶように眺めながら独り言を呟く。
「見たくもない自分の中の1ページを白紙にする。やっぱりこれは時間と空間という名前の枷から解放してくれる希望そのものだわ」
暫くして方舟は一切の音を立てず空の彼方へと消えていった。
方舟は以後二度と現れることは無かった。たとえ満月の日の夜でも……。
《完》
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