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秋が来てしまった
俺は夏が好き。
夏は開放的で、自由で、キラキラしてる。少しくらいの失敗は、夏のせいにしちゃえってそう思う。
でも、夏から秋になって、秋から冬になるころ人恋しくなって、寂しくて仕方がなくなる。
でも、今年は違う。
大好きな、1コ上の武尊先輩に、この夏、勢いに任せて告った。
「武尊先輩!」
「んー?」
呼び止めた時の先輩は、なんの疑いもない顔をしていた。
武尊先輩は、バイト先の尊敬できるサービスマンで。バイト帰りには時々、バーに連れて行ってくれる。
「俺、前から言いたかったんですけど。」
俺は、この春、20歳になったばっかりだ。その誕生日を祝ってくれた。
その場所は、楽天スタジアムだった。楽天と日ハムの試合を見ながらビールを飲んだ。
「何ぃー?」
「20歳の誕生日嬉しかったです。」
「え?それ、結構前の話だねー。」
「俺、武尊先輩のことっ!」
ギュッと拳を握って力を込めた。先輩は俺の肩に手を置いた。
「いいよー。付き合おっかー。」
「……えっ。」
「俺、好きよ、嘉月のこと。」
好き?それ、どういう好き?後輩として?友達として?俺はね、先輩のこと、恋人になりたいっていう気持ちで好きなんだよ。
「…あの、先輩、俺……」
「じゃなきゃ、誘わんよね?ずっと、ワンチャン狙ってたんだけど、嘉月ぜんぜん気づかんのよね。鈍いのも良い加減にしてって思ってたんだー。」
「武尊先輩って、その……。」
「ゲイだよ。嘉月は?」
耳に触られた。
俺はずっと、女の子となんとなく付き合ってなんとなく別れて来た。女の子の体にはやたら興味があって、えちえちなこともすることはして来た。
男の人にときめいたのは武尊先輩が初めてで。顔も声も所作も性格も、全部全部、大好きで。
「俺は、女の子が好きですけど。武尊先輩にドキドキします。つまり、これは、完全に武尊先輩が大好きで、武尊先輩になら、あの、あの、捧げたいんです!!俺の未開の、未知の、見知らぬ世界を……。」
「はははー。かわいい。付き合おう。」
だから、今年の秋は、俺には武尊先輩がいる!!
因みに、まだえちえちなことはしていない。俺は裸を見られるのは勇気がいる。でも、先輩には全部捧げるつもり。俺は、来たるその日のために前準備について色々と調べてみた。
しかし待てよ?武尊先輩は、どっちが良いんだろうか。いや、どっちでも良い。俺が準備しておけば良い。そういうことだ。
きょうも、準備はできてる。
武尊先輩さえ、その気になってくれれば。俺はいつだって初めてを捧げられるんだ。恥ずかしいけど。
因みに武尊先輩は、ホールのサービス係。俺は調理補助をしている。俺は、大学生。ゆくゆくは、調理師になる。衛生士の資格も取って、学校給食センターで働くんだ!
「かーつき、この後飲み行かない?」
バイトが終わってロッカーで着替えていると、武尊先輩が入って来た。武尊先輩はもう着替えを済ませていた。
「喜んでー!」
「ん?きょうは居酒屋にいきたいのー?」
耳にキスされた。
「いえ、その。テンション上がって。」
「かわいい。飲み行くのやめてえ、俺の部屋くるー?ビールと、レモンサワー買ってー、おつまみは……」
「え、え?」
「チップスターでいい?」
耳元で、囁かれるから、なんか変な気分になってくる。えっちぃワードなんかひとっつもないのに。
俺は、耳まで真っ赤になっている気がして、何も言えずコクコク頷いた。
「帰ろ、嘉月。」
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