秋が来てしまった

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先輩の部屋に来たのは初めてじゃない。 でも、やっぱまだまだ緊張する。何せ高層マンションの最上階。同じ大学生なのに。見てる世界が全然違うんだと思わされる。 「嘉月、緊張しないで。」 「だって、優雅な部屋で。」 「親が形成外科の医者だからだよ。」 「先輩も医者になるの?」 「ならないよ。」 「なれって言われないの?」 「言われても無理。俺は、歯医者になるから。」 「歯医者も医者ですよ。それはそれですごいじゃないですか。」 「そっか。」 先輩に抱きしめられてキスされた。 顔を離すとくすりと笑う。 「酔いたい?」 手に下げたビニール袋を持ち上げて俺に見せてきた。 「少し酔った方が力が抜けて良いかもよ?先にシャワー浴びちゃう?酔い潰れてからシャワーは命の危険があるからさあ。」 先輩の手が脇腹と臀部をくすぐった。 「シャ、シャッ、シャワー借ります!!」 まさかまさかまさか!! 俺はドキドキ高鳴る胸を抑えて脱衣所に駆け込んだ。駆け込んだその先で目にしたものに驚いた。 あらかじめ用意されていたのだ。 吸水力抜群の新品のバスタオル。 俺が着たらちょっと大きいくすんだグリーンの新品のTシャツ、パッケージ未開封の黒いボクサーパンツ、新品の黒いスウェットのハーフパンツ。 付箋が1枚貼ってあって“嘉月のだよ。”って。 か、金持ちかよ!! 今着ている自分の服を素早く脱いで、風呂場に入ってシャワーを捻った。全身を隅々まで洗って、調理場の油の匂いを落とした。浄化される気分だ。シャワー大好き。ついでに、まさかのことを考えて、洗わなきゃいけないところを洗った。 俺は、全身脱毛してるから、余計な毛もないし、髭もない。もし、裸見られたら……男らしくなくて引くかな……。なんて、ちょっと不安になる。 いや待て。武尊先輩も、髭は丁寧に処理してるっぽくて、腕もサービス係だからか、すごい綺麗だ。俺に引くなんてことないはずだ。 人恋しい季節到来。 武尊先輩に抱かれてみたい。 風呂場から出て、体を拭いて、用意されていた服を着た。パンツ以外はブカブカで彼氏服ってかんじ。武尊先輩は俺より10センチ背が高い。きっと、自分用に買ったけどまだ着てないやつ貸してくれたんだ。 脱衣所から出ると、武尊先輩が、自分の着替えを持って立っていた。 「お借りしました。」 「かわいいねー。」 俺の肩に顎を乗せて来た。 「先にお酒飲んでても良いからねー。」 吐息混じりの甘い声に腰が砕けそうだった。 俺は放心状態でソファーに座った。 武尊先輩は言ったんだ。『ワンチャンあるかも』って。だから、きょう、俺がここにいるのは、そういうことに違いないんだ。 目の前にあるレモンサワーの缶を開けてコップに注いだ。それを一気に飲み干すと体があったかくなって頭がふわふわして来た。 いけない。寝ちゃうかも。そばにはペットボトルの水がある。グラスに注いで飲む。でも、酔いは回ってくる。 だめだよ。抱かれたいのに。これじゃ寝ちゃうよ。一気飲みした俺のばか!
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