神道へ向かうものたち

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 雨に打たれる。  冷たい風にあたり冷え切った骨壺を抱えた僕は、白い森に建つさびれた展望台を上っていた。ここは幼い頃、父さんが「神様に近いところだ」と教えてくれた場所。僕にはどうしても、神様に会って聞かなければいけないことがある。父さんは隠し事が多い。神様に信頼されている『教祖様』だから仕方がないかもしれないけど、今回のことだけはどうしても納得できない。父さんに聞いても、きっといつものようにはぐらかされてしまうだろう。  雨水を含んだ前髪が視界を掠める。ぽたりと垂れた水滴が骨壺を包む風呂敷に吸収された。 「ごめん、リカル。君の願い、叶えられそうにないや」  震える声でそう呟いた僕は深く深呼吸をする。これから深い闇の底へ身を投げるんだ、心の準備が必要だろう。僕は父さんみたいに大きな力がない。神様も〈ただ〉で会ってくれるはずがない。だから、僕はそれ相応のものを差し出さなければいけない。大丈夫。後悔はしないから、きっと。  展望台の隙間から強大な雨風が背中を押す。自然の力もこの選択に賛同しているようだ。そのまま風の勢いに身を任せ、ふらふらと防護柵まで歩いていく。骨壺を硬く抱きしめ、外へ顔を乗り出した。底が見えない黒い闇。地面に打ちつけられる雨の音が淡々と響き渡っているだけだ。  ぐっと目を瞑る僕の脳内にリカルの声が蘇る。 「・・・ああ、家に帰りたい。父ちゃんと母ちゃんに会いたい」  リカルのあの日の言葉。あいつがここに来た理由とは違う、もう一つの願い。結局、僕はリカルとの約束を破ってばかりだ。胸を抉られるような痛みに視界が歪む。今まで抑えてきたものが全身から溢れ出し、足からその場に崩れ落ちた。 「ああ、遅かったか」 「え」  突然、背後から聞こえた男の人の声に間抜けな声を上げた。霞む視界でとらえたものは、黒服に身を包んだ中年くらいの男だった。よく見ると、黒いレインコートのようなマントを羽織り、フードを深く被っている。男は、これ以上なにかを話すこともなく、生気を失ったような冷酷な視線をこちらに送ってくるだけだった。
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