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「やっと見つけた。」
路地の出口で声がする。まさか、見つかった?
「仁、いい加減にしろ」
その人の声で、仁君が唇を離した。
この人が来なかったら、どうなっていたのか。
「一花、ごめん。後で叱っておくから」
優しく髪を撫でられる。声の主が誰だかわかっているんだ。
「おい、良く状況を考えて声かけろよ」
ドスの利いた声に変わる。
「悪かった。でもそろそろ此処から離れないと本格的に巻き込まれるぞ。」
「チッ」
仁君が舌打ちをした。手を引かれて路地の出口に向かう。
そこには、黒スーツにサングラスの人が立っていた。
「こいつ、俺の右腕。黒崎。覚えておいて」
右腕って、言われても。黒崎さんを凝視する。
「一花さん、お初にお目にかかります。右腕の黒崎です。以後お見知りおきを。」
ほんとにその世界の人って感じの挨拶だ。
「は、初めまして。一花です。」
辛うじて、挨拶を返す。
サングラスを外した彼が、私の手を取って、甲にキスをした。
え、え、え、え、え、この世界ではこういうのが当たり前なの?
数日前からカルチャーショックだ、私。
「おい、何すんだ」
仁君が黒崎さんの頭を殴った。然もグーで、思いっきり。
「いてぇな。ぞっこんかよ」
黒崎さんが自分の頭を撫でながら、仁君の額を小突いた。
若頭相手にこんな事が出来るなんて、特別な関係なんだろうな。
「煩い」
仁君の顔が赤くなる。可愛い。
「行くぞ。あいつらまだ諦めてない」
「わかった。」
仁君が私に向き直った。
「助けてくれてありがとう。じゃあ、また。」
2人が辺りを見回しながら、軽快な足取りで走り去って行った。
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