第1話

10/20
前へ
/36ページ
次へ
「やっと見つけた。」 路地の出口で声がする。まさか、見つかった? 「仁、いい加減にしろ」 その人の声で、仁君が唇を離した。 この人が来なかったら、どうなっていたのか。 「一花、ごめん。後で叱っておくから」 優しく髪を撫でられる。声の主が誰だかわかっているんだ。 「おい、良く状況を考えて声かけろよ」 ドスの利いた声に変わる。 「悪かった。でもそろそろ此処から離れないと本格的に巻き込まれるぞ。」 「チッ」 仁君が舌打ちをした。手を引かれて路地の出口に向かう。 そこには、黒スーツにサングラスの人が立っていた。 「こいつ、俺の右腕。黒崎。覚えておいて」 右腕って、言われても。黒崎さんを凝視する。 「一花さん、お初にお目にかかります。右腕の黒崎です。以後お見知りおきを。」 ほんとにその世界の人って感じの挨拶だ。 「は、初めまして。一花です。」 辛うじて、挨拶を返す。 サングラスを外した彼が、私の手を取って、甲にキスをした。 え、え、え、え、え、この世界ではこういうのが当たり前なの? 数日前からカルチャーショックだ、私。 「おい、何すんだ」 仁君が黒崎さんの頭を殴った。然もグーで、思いっきり。 「いてぇな。ぞっこんかよ」 黒崎さんが自分の頭を撫でながら、仁君の額を小突いた。 若頭相手にこんな事が出来るなんて、特別な関係なんだろうな。 「煩い」 仁君の顔が赤くなる。可愛い。 「行くぞ。あいつらまだ諦めてない」 「わかった。」 仁君が私に向き直った。 「助けてくれてありがとう。じゃあ、また。」 2人が辺りを見回しながら、軽快な足取りで走り去って行った。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加