135人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「じゃあ、適当にお任せで」
私がメニューを選ばなかったから、仁君がお店の人にそう言った。
「嫌いな物が出たら、俺が全部食べるから大丈夫だよ」
仁君が笑う。もう子供じゃないんだから、嫌いな物なんてないって言おうとして、折原さんの顔が浮かんだ。
思い出してしまった。仁君と食事している所を見られたりしたら、もう言い訳も出来なくなっちゃう。
個室なのに、周りを見回してしまっていた。
此処は会社の近くじゃないから、大丈夫な筈。
あ~、まだ出社2日目なのに。明日、会社に行きたくない。
料理が運ばれて来た。どれも美味しそう。
食欲は無かった筈なのに、料理を見た途端、お腹が勢いよく鳴った。
あ、やだ、恥ずかしい。お腹を押さえる。
「沢山食べて下さい。一花さん」
黒崎さんが笑っていた。
「ピーマン、俺が食べようか」
仁君が言った。まさか、私の嫌いな食べ物を覚えていたのだろうか。
「一花さん、ピーマン嫌いなんですか?」
黒崎さんが、なんだか嬉しそうに言った。
「そうじゃん、黒崎もダメだったな」
黒崎さんが、恥ずかしそうに俯いた。なんだかこの人も可愛く見えて来た。
違う、この人達は絶対可愛い部類ではない。
「ピーマンくらい食べられます」
そうは言ったけど、出来るなら食べたくない。
「俺は、無理だ」
黒崎さんが言った。意外に正直な人だな。
結局ピーマンは出て来なかった。
料理はどれも美味しくて、普段は食べない量がお腹に収まった。
最初のコメントを投稿しよう!