第1話

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「じゃあ、適当にお任せで」 私がメニューを選ばなかったから、仁君がお店の人にそう言った。 「嫌いな物が出たら、俺が全部食べるから大丈夫だよ」 仁君が笑う。もう子供じゃないんだから、嫌いな物なんてないって言おうとして、折原さんの顔が浮かんだ。 思い出してしまった。仁君と食事している所を見られたりしたら、もう言い訳も出来なくなっちゃう。 個室なのに、周りを見回してしまっていた。 此処は会社の近くじゃないから、大丈夫な筈。 あ~、まだ出社2日目なのに。明日、会社に行きたくない。 料理が運ばれて来た。どれも美味しそう。 食欲は無かった筈なのに、料理を見た途端、お腹が勢いよく鳴った。 あ、やだ、恥ずかしい。お腹を押さえる。 「沢山食べて下さい。一花さん」 黒崎さんが笑っていた。 「ピーマン、俺が食べようか」 仁君が言った。まさか、私の嫌いな食べ物を覚えていたのだろうか。 「一花さん、ピーマン嫌いなんですか?」 黒崎さんが、なんだか嬉しそうに言った。 「そうじゃん、黒崎もダメだったな」 黒崎さんが、恥ずかしそうに俯いた。なんだかこの人も可愛く見えて来た。 違う、この人達は絶対可愛い部類ではない。 「ピーマンくらい食べられます」 そうは言ったけど、出来るなら食べたくない。 「俺は、無理だ」 黒崎さんが言った。意外に正直な人だな。 結局ピーマンは出て来なかった。 料理はどれも美味しくて、普段は食べない量がお腹に収まった。
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