第1話

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「美味しかった?」 仁君が聞いてくる。 「凄く美味しかった」 ご馳走様と言いそうになって、あ、奢ってくれるとは言われてない。 これを割り勘とか言われたら、いくらになるんだろう。 お財布の中身を思い浮かべる。無理だ。絶対足りない。 「黒崎、先に車に行ってて」 「了解。行きましょう。一花さん」 「あ、お金払います」 そうは言ったものの、実際は払えそうにないんだけど。 「俺が誘ったんだから、いらない」 良かった。とホッとしたけれど、それでいいんだろうか。 「いや、でも………」 「一花さん、行きますよ。」 黒崎さんに、手を引かれる。 「おい、黒崎。触るな」 仁君がドスの利いた声をだして、黒崎さんの腕を掴んで、私から引き離した。今にも黒崎さんに掴みかかりそうになる。 「若頭、申し訳ありません」 黒崎さんが跪いた。あれ、突然の任侠モード?仁君が黒崎さんを殴ろうとしていた。 「仁君、やめて」 黒崎さんの前に立ちはだかる。 「一花」 仁君が腕を下した。黒崎さんを睨みつけている。 「気を付けろよ。次はないからな」 「はい、若頭。本当にすみません」 黒崎さんが床に頭を付けた。 今まで、仲良しモードだったのに、この世界のルールみたいなものを見てしまった気がした。 私がさっさと行かなかったから、こんな事になってしまったんだ。 「黒崎、支払い」 仁君が黒崎さんにカードを渡した。 「一花、行こう」 仁君が私の手を握った。 もうさっきの表情から、優しい仁君の顔に戻っていた。
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