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「美味しかった?」
仁君が聞いてくる。
「凄く美味しかった」
ご馳走様と言いそうになって、あ、奢ってくれるとは言われてない。
これを割り勘とか言われたら、いくらになるんだろう。
お財布の中身を思い浮かべる。無理だ。絶対足りない。
「黒崎、先に車に行ってて」
「了解。行きましょう。一花さん」
「あ、お金払います」
そうは言ったものの、実際は払えそうにないんだけど。
「俺が誘ったんだから、いらない」
良かった。とホッとしたけれど、それでいいんだろうか。
「いや、でも………」
「一花さん、行きますよ。」
黒崎さんに、手を引かれる。
「おい、黒崎。触るな」
仁君がドスの利いた声をだして、黒崎さんの腕を掴んで、私から引き離した。今にも黒崎さんに掴みかかりそうになる。
「若頭、申し訳ありません」
黒崎さんが跪いた。あれ、突然の任侠モード?仁君が黒崎さんを殴ろうとしていた。
「仁君、やめて」
黒崎さんの前に立ちはだかる。
「一花」
仁君が腕を下した。黒崎さんを睨みつけている。
「気を付けろよ。次はないからな」
「はい、若頭。本当にすみません」
黒崎さんが床に頭を付けた。
今まで、仲良しモードだったのに、この世界のルールみたいなものを見てしまった気がした。
私がさっさと行かなかったから、こんな事になってしまったんだ。
「黒崎、支払い」
仁君が黒崎さんにカードを渡した。
「一花、行こう」
仁君が私の手を握った。
もうさっきの表情から、優しい仁君の顔に戻っていた。
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