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黒崎さんが助手席から降りて、後部座席のドアを開けてくれる。
「ここに仁がいます」
そう言われたけれど、此処は病院としての設備が整っている様には見えなかった。
「病院なんですか?此処が?」
車から降りながら、そう呟いた。
黒崎さんには聞こえなかったのか、聞こえない振りをしたのか、
私の問への答えは無かった。
黒崎さんの後に付いて、普通の民家にしか見えない建物の玄関に向かっていた。
黒崎さんがインターフォンを鳴らす。
「お疲れ様です」
モニター付きインターホンらしく、中からドスの効いた声が聞こえて来る。
ドアが開いて、黒い服を着た男性が2人出て来た。
2人がきょろきょろと辺りを見回す。
「変わった事はなかったか?」
黒崎さんがそう尋ねた。
「はい、大丈夫です」
黒崎さんが私の方に向き直る。
「一花さん、入って下さい。早く」
黒崎さんも辺りを見回す。
運転手の彼は、道路の方を向いて仁王立ちしている。
やっぱり、この状況には慣れない。
こんなに警戒している場所に居る事に不安を感じる。
でも、それ以上に今は仁君の状態が気になる。
黒崎さんに促されて、家の中に入った。
極々普通の一軒家に見えていたけれど、玄関にある窓には頑丈そうな鉄格子が付いていた。やっぱり普通ではなさそうだ。
しかも、靴のまま家の中に案内された。
廊下の両側の壁には、いくつか大きな穴が開いていた。
それに外から見る以上に、奥に広い家で長い廊下をかなり歩いた。
黒崎さんの足が、黒いドアの前で止まった。
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