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第1話
「懐かしい………」
私は1軒の家の前に立っていた。外観は私の記憶のままだ。でも外壁の色が違う。あの頃の色は覚えていない。でも、色が違う。私の色じゃない。
何故か、そう思った。
またこの街に戻ってきた。偶然とはいえ、転職して此処での生活を選んだ。
もう私の家ではないけれど、此処での記憶は蘇る。
背後に車の音がした。2,3歩、家側へ移動する。
隣の家の前でその車は停まった。
黒塗りのごっつい車体。如何にもという車だった。
隣は確か。隣の家は私の記憶のまま其処にあった。
助手席から男性が降りた。後部座席のドアを開ける。
中から黒いスーツを身に纏った、長身の男性が降りて来た。
これもまた如何にもという出で立ち。サングラスに、茶色の髪。
スーツの袖から覗く手首には、龍の頭があった。
私はちょっと怖くなって、車が来た方向とは反対に歩き出す。
「あれ、ちょっと君」
背後から声がした。君ってまさか私じゃないよね。でも周りには誰もいない。
このまま、気付かない振りをした方がいいのか、判断かつかない。
「ねえ、」
再び、さっきと同じ声がする。やっぱり私だ。
仕方無く、振り返る。
「はい、なんでしょうか?」
家の中から、人が出て来ていて、十人近い黒スーツの男性がこちらを見ていた。
怖い、どうしよう。逃げたらとんでもない事になりそうだけど、逃げたい。
或いは、穴があったら入りたい。
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