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その翌日から、私と赤殿は二人の師から技術を学んだ。
神剣が何かは学ばなかった。そんなものは到底わかりうるとは思わなかったし、必要でもなかったから。けれどもその技術はきちりと承継しなければならない。何故ならそれこそが私と赤殿が存在する意味であるからだ。
莫邪師が欧冶子の最後の剣を打ったように、私と赤殿も神剣を打たねばならない。それが私たちの、旅の最初から定められた存在意義だった。そしてそのために、技術も何も知らない白紙の私と未だ子どもであった赤殿が選ばれたのだ。
その日は恐ろしいほどいつも通りにやってきた。
朝、陽の光で目が覚める。チチリと小鳥の声が耳に響く。体を起こして水を汲み、いつもより少しだけ簡素な食事を得る。そうして家と工房を掃き清めた。
そうして炉の前に立つ。
いつもより大きく用意した炉は3日前から交代で火を焚べていて、炉の中では鉄が世界のように溶けていた。これが最後の神鉄だ。これで神剣を打たねばならない。
二人の師は白の装束を身にまとい、私と赤殿の前に立つ。
「ようやく最後の工程だ」
「さぁ神剣を作りましょう」
師らは当然のように述べる。けれども私はその意味に、震えが止まらなかった。
「父上、母上。お止め下さい。この下命はお二人の命を賭してまで成し遂げなければならないものではないでしょう?」
赤殿の震える叫びが再び工房に満ちる。それは家族としての叫びなのだろうか。それとも人として、その神の行為を恐れているのか。けれども私も赤殿も、師らの答えなどわかりすぎるほどわかっていた。
「赤。もはや王命など関係ない。無論断ることなどはできなかっただろうが、私たちは神剣を打つことを、他ならぬ私たち自身が決めたのだ」
「そうです。神剣の存在はいつも私の心の奥にありました。ですからこれは、これこそが私と干将の長らくの望みなのです」
二人の師は私と赤殿を優しく抱きとめた。
そして炉の上に登り、羽が舞うかのように炉に落ちた。
その瞬間、まるで世界が割れるかのような紫気が立ち上る。全てを吹き上げ全てを変化させる炎と全てをとどめようとする金鉄、その相克の中に神を刻むお二人の土。
血涙を流す赤殿とともに無我夢中で槌を振るい焼成し、焼きを入れて戻し押し延べて叩く。たくさんの日をまたいで長い長い工程が全て終わったその朝。私と赤殿の前には二振りの剣が横たわっていた。
僅かに闇色を帯びた亀裂紋様の浮かぶ神剣干将。
薄曇りのような光を帯びた水波模様の浮かぶ神剣莫邪。
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