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6章 神剣の行方
「眉間尺と申したか。その方が干赤を討ったのか」
「はい。楚王様」
わしは玉座から、眼の前の深々と頭を垂れた兵と、その広げたものを見下ろしていた。
油断をすれば口の端から笑みが零れ落ちそうになるのをぐっと我慢した。なぜならそこには干将の息子の干赤の首だけでなく、神剣と呼ばれる干将剣があったからだ。その亀甲のような模様を描く神々しい剣は一目で神剣とわかる神々しさを放っていた。わしは漸く剣を手に入れた。
よく見ようと目を凝らし、すぐ隣の首と目が合い思わず仰け反る。
「そ、その者は本当に死んでおるのか?」
「もちろんでございます。首だけとなっておりますから」
首だけ。けれども風呂敷の上のその首は、確かに首を上げてわしを睨みつけていた。わしはこれまでも数々の戦場を渡り歩いた。誰も彼もが眼前の敵を討ち滅ぼそうと鋭い眼光を放っていた。けれどもその首はそれらの兵とは違っていた。何が違うのだ。酷く不快だ。見ていれば、怖気がする。
「なるほど。たしかに首だけである。それではその剣を渡してもらおう」
「今は、尚早です」
「何? ではその方は何故その剣を持ってきたのだ」
予想外の答えに困惑した。わしは長い間干将剣を探させたが、いくら探しても見つからなかったのだ。わしが干将剣を探していることは知れ渡っている。渡すつもりがないのであれば隠せばよかったのだ。干赤の首にも賞金をかけていたのだから、それだけでも十分な報奨が受け取れる。
「この男はこの剣を非常に気にしておりました」
その兵が言うには、死ぬ間際にも干赤は干将剣を守ろうとしたそうだ。その執念たるや聞くだに恐ろしい。剣を自らの体に巻き付け、自らが死しても奪われまいとするかのようだったという。
けれども実際、干赤はわしの目の前に転がっておる。
「そして今、王の仰る通り、この首はまるで生きているようです。そうであれば夜にこの剣を奪いに飛んでくるやもしれません」
兵は至極真面目に答える。
「死体が剣を求めて飛んでくるだと?」
「この首を刎ねた時、しばらく立っておりました。これは強い念を宿した勇士の首なのでしょう」
まさか。そうは思ったが、たしかにそれすら可能に指せる気迫が干赤の首から漂っていた。この辺りには古来より飛頭蛮という妖がいる。夜中になれば首が胴体が離れて飛び回るのだ。
干赤はたしかに死んでいる。しかし妖と化して飛び回るかも知れぬ。それがないと言い切れぬほど、干赤の首は行きているようにわしを睨みつけている。今にも飛んでわしの首を食いちぎりそうだ。
「全くどうすればいいのだ」
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