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2章 鋳鉄の果て
赤。
その熱気渦巻く小さな建屋にはゴォゴォと炎が荒れ狂う音が響き渡っていた。
汗が噴き出る。灼熱だ。火が逆巻くごとに朦朧としかける意識に活を入れ、手に力を込める。そうすると手の中のフイゴから強い風が巻き起こり、それが溶鉱炉に接続された小さな穴から吹き込むことで炉が逆巻き、オレンジや深い赤に化した鉄がぐにりぐにりと渦巻き生き物のように踊り狂う。そうして長い時間をかけて燃え盛った鉄は、炉の細い口から叫び声のような光輝を放ちながら流れ落ちる。それを手早く均等に鋳型に流し込む。
火、風、土、水、金、世界の全てが1つの剣を成すためにこの建屋に渦巻いている。
干将師はきつく目を閉じ歯を食いしばり、それでも神に祈りを捧げる。
「今度こそ!」
「……きっと駄目ね」
干将師の熱き魂のこもった叫びに莫邪師は冷水の如く返す。
「嗚呼! ……一体何が足りぬというのだ!」
干将師はゆっくりと目を開け鋳型に顔を近づけた。次第に黒く変化してゆくその塊は未だ高熱を発し、干将師の顔を赤く染め上げぽたりと垂れた汗にジュウと鳴り、白煙が上がる。急いで差し出した冷水を、干将師は一息で飲み干し、再び目を上げた時には平常を取り戻していた。
干将師は未だ赤く輝く鉄を目線の高さまで上げ、目を皿のようにして窺う。私に見えぬものを二人の師は見つめているのだろう。
「何故だ、何故なのだ。天も地も全て整えた。何が足らぬというのだ」
この地も莫耶師が様々な天地の気を観て、それがより集まりやすい場所として選ばれた。
「試しましょう、干将。様々に試すのです。最も良いものを作るために」
「そう……だな。まずはこの鉄が冷えたら調べよう」
既に数十度試みた。そしてその度により良い配合を試みた。けれども師らは一向に満足しなかった。
私には出来たものの何が悪いのか一向にわからなかった。鋳型にはめ込まれた黒黒とした鉄は、これまで見た塊よりはるかに密度が濃く、いかにも丈夫で強そうであったのだ。
「お師様方。この剣のどこが駄目なのでしょうか」
干将師は首を左右に振る。
「その問いが出ることこそ、この剣が失敗であることを物語っているのだよ」
「けれども、これまで試した剣もこれまでの剣とは異なり遥かに強い剣に思われます」
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