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穴の中
「高橋さん」
穴の中に呼びかける。
「高橋さーん」
なんだよ、と返事が聞こえるのを期待したけれど、自分の声が反響するだけだ。三度目を呼びかけようとしてやめた。こんな場所で、声を出すのが無防備に思えた。
僕は注連縄が結び付けられた杭を指し直した。二礼二拍手一礼はここの神の礼儀に合っているかどうかわからないけれど、一応しておく。
――ここまでする必要あるのか?
僕の嫌いな人種だろ。
そんな内なる声がしたけれど、僕は頭を振った。神崎さんにもらったお札をリュックから出し、上着ポケットにうつす。右手にはライトをつけたスマホ。
そして、注連縄の奥へと足を踏み入れた。
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