おめざめ。なのー!3

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ

おめざめ。なのー!3

【4】  しーちゃんと『おともだち』になった翌日。  ぼくは、またいつもの『お気に入りの場所』に行くことにした。日差しが心地よくて、そよそよと風が揺らいで……お昼寝にはぴったりの気温。ふぁ……眠くなっちゃうなぁ。  今日は切り株をベンチに。  膝の上には……  「ルルヤくん。おべんとうもってるのー」  そう。  今日は、お昼ご飯にお弁当をもってきたんだ。これは『オトギリ町』に住んでいるひとなら、だれでも『無料』で食べられる。  けれど……その味は……。  ーー恐ろしくまずい。  身体が『食べ物』と認識して、飲み込めるだけマシなんだ。  そのくらいおいしくない。  この『お弁当』はね。1日でも長持ちさせるために、お薬をいっぱい入れたり。華やかにさせるために、お野菜やお肉を色水に漬けてたり……そんな噂が絶えないんだ。  『お弁当』の中には、たまによくわからないミンチ肉や、ブロック肉? みたいなのが入ってるんだ。ぼく。お肉嫌いだし、食べたくないから、毎回残しちゃう。  もったいない。って、心の中では思ってるんだけどなぁ……。  実際。味はなんにもなくて。ぱさぱさで。微かなお薬の味と、苦味しかないから。完食なんてできないけど……。  はー……。  食べる前から憂うつだよ……。  話がそれちゃった。  「しーちゃん。このお弁当。冷たくてすっごくまずいんだけど。食べたい?」  「なのー?」  あぁ。ぼく、しーちゃんになんて質問をしてるんだろう……。まずいお弁当なんてさ。誰も食べたがらないよ。しーちゃんだって食べたく無いでしょこんなの。  けれど。しーちゃんはなぜか興味深々で。  「すっごくまずいのー?」  「まずい」    ほんと。ほんとにまずいんだよ!  でも。食べないと生きていけないから、仕方なく食べてる。ぜんぜんお腹は膨れないけど。  「なーの?」  しーちゃんがぼくの『お弁当』を覗き込む。  「ふんふん」しーちゃんがお弁当のニオイを嗅ぐ……。蓋したままだから、ニオイわかんないと思うけど……。  「ルルヤくん。 しーちゃんねぇ まほうをかけるのー! おいしくするのー!」  しーちゃんの優しさが沁みる。本当に『おいしい』お弁当だったら、ぼくも全部食べきるんだけどなぁ。  「あ、ありがとう。気持ちだけもらっておくね」  「おいしくなーれ! なのー!」  ーーぽん。  「えっ」  お弁当から、急にいい匂いが漂いはじめる。あれ? 何故か急に温かくなってるし。  ぐるっ。美味しそうな匂いに、ぼくのお腹が鳴った。  (どういう……こ、と?)  お弁当の蓋を開けたらびっくり。    「あれっ!?」  いつものお弁当じゃない!  つやつやふっくら真っ白ご飯に、シャキシャキのお野菜。ほくほくのポテトサラダがついて……あ、あとは……。  「うっ……。ミートボール……」  「どうしたのー?」  「し、しーちゃん。ミートボール好き? 食べてほしいんだけど……」  ぼく。お肉が嫌いで……。特にミンチ肉はトラウマがあって、口に入れられないんだよね……。  「ミートボール? じゅるり たべるのー!」  しーちゃんは、どうやらお肉が好きみたい。良かった……。  「しーちゃんねぇ おにくたべたいのー!」  「じゃあ。あげるよ」  もぐもぐ。しーちゃんがミートボールを頬張る。すごく。美味しそうに食べている。  「ごくっ。 おいしーちゃんなのー」  「ありがとう。助かったよ」  ふぅ。ひとあんしん。  (ぼくも、食べよう)  ぼくは、ふっくらの真っ白ご飯を口に運んだ。ほかほかしてて、つやつやでおいしそう。うん! 甘みがあって、とても……  ーーおいしいっ!  「しーちゃん! ご飯美味しくなってる!」  「よかったのー!」  こんなに美味しいお弁当ははじめてだ。  「しーちゃん。ありがとう。嬉しいな」  にこにこ。思わず笑顔が溢れちゃう。  「しーちゃんのちから いつでもたよるといいのー!」  えっへん。  ……こんなお弁当なら、毎日食べてもいいかも。  もぐ、もぐ……。  おいしい! おいしい!  (すごく、おいしい……よ!)  食べるのに夢中になるぼく。  あっ。ぼく。いつの間にか食べきっちゃった。  普段はフォークが止まって、完食なんてしないのに。  「お腹いっぱいになったよ。ありがとう。しーちゃん」  「ルルヤくん。にこにこえがお。うれしいのー」  しーちゃんと『おともだち』になったのは、昨日だけど。ぼく。なんだか、すごく前からしーちゃんと『おともだち』になってたような……そんな気がするんだ。  ……。  ……。  ふぁあ。  こんなに美味しいお弁当を食べたら、なんだか眠くなってきちゃったなぁ。  切り株に空いたお弁当の容器をおいて。   「ふぅ……」  芝生にごろり。草木のニオイが心地よくて、気持ちいい。  「しーちゃん。ぼく。ここでお昼寝していいかな? なんだか眠くなっちゃって」  「しーちゃんが ねんねのみはりするのー!」  しーちゃん。頼もしい。  (いい『おともだち』ができて、ぼく。嬉しいな)  「ありがとう……」  ぼくは、しーちゃんに見張りを任せて、お昼寝をすることにした。  ……。  ……。  ……。  深い眠り。  ぼくが目覚めたのは、それから少しだけあとのことだった。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!